浮気や不倫による離婚や慰謝料の基礎知識と相場
結婚している夫婦のどちらか一方が浮気や不倫をした場合、「不貞行為」という民法上の不法行為になりますので、慰謝料請求をすることが可能です。特に不倫が原因で離婚した場合には、相場で200~300万円の慰謝料請求ができます。この記事では、不倫の慰謝料について、基礎の基礎からかなり詳しく解説します。なおこの記事では便宜上、夫婦のうち不倫をしたのが「夫」、被害者が「妻」、不倫相手は女性と仮定して説明しますが、もちろん逆のパターンでも同じです。
夫の浮気や不倫が原因で離婚することになったら、夫に慰謝料の請求ができるんだよねー? その場合はいくらぐらいの慰謝料を請求すればいいのかなー?
じゃあ戸籍上は結婚したままでも、実質的に婚姻関係が破綻してたら、夫は浮気(不倫)をしても慰謝料を支払う必要はないってことだよね・・・? 婚姻関係の破綻ってどういう状態を言うの?
ちなみにもし夫が不倫をした場合は、浮気相手の女にも慰謝料を請求することはできるのー? もしできるとしたら、夫と浮気相手の女それぞれから200万円ずつ慰謝料が取れるのかな?
- 夫が不倫をした場合は、離婚しても離婚しなくても慰謝料請求はできる
- 不倫が原因で離婚した場合の、裁判での離婚慰謝料の相場は200~300万円
- 不倫関係になる前に、既に婚姻生活が破綻してた場合は、慰謝料請求できない
- 浮気相手にも慰謝料請求はできる。ただし不倫であることを知ってた場合のみ
- 夫と浮気相手の両方に慰謝料請求はできるが、貰える合計金額は変わらない
1.そもそも不倫や浮気はなぜ慰謝料請求の対象になるの?
2.法律上どこからが「不倫」になるの?証拠はどうする?
3.慰謝料が請求できるかどうか裁判で争いになる場合
4.不倫の慰謝料はいつまで請求できる?慰謝料の消滅時効
5.不倫による離婚慰謝料の金額の相場について
そもそも不倫や浮気はなぜ慰謝料請求の対象になるの?
世間一般のイメージでは、「不倫された=慰謝料請求」と考えている方も多いと思いますが、全てのケースで必ずしも慰謝料請求が認められるわけではありません。例えば、既に夫婦が別居してから5年以上が経過している場合など、客観的にみて夫婦関係が既に「破綻している」場合は、慰謝料の請求はできません。
また、「誰が誰に慰謝料を請求できるのか?」「浮気をした夫だけでなく、相手の女にも慰謝料請求できるのか?」「どこからが法律上の浮気なのか?」「どうやって不倫関係が法廷で立証するのか?」ということまで踏み込んで考えると、そう簡単な問題ではありません。
当記事ではこれらの問題を全て丁寧に解説しますので、この1記事をしっかり読んでいただければ、基礎的な不倫の慰謝料に関する知識は一通りわかります。少し長いですが、ぜひお付き合いください。
まずは「なぜ法律上、妻は不倫した夫に慰謝料を請求できるのか?」から説明します。周りくどいと感じるかもしれませんが、非常に重要なポイントです。
浮気や不倫による「慰謝料請求」というのは、日常会話ではよく使われる用語ですが、そもそも法律上の用語ではありません。民法上は「不法行為による損害賠償請求」といいます。
これはご存知の方も多いかもしれません。根拠となる条文は以下です。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(民法709条)
つまり、相手の不法行為によって自分の「権利」や「利益」(保護法益といいます)が侵害されたことにより、何かしらの損害を受けた場合にその賠償金を請求できる、ということです。
「当たり前じゃないか、だから何だよ。」と思われるかもしれませんが、ココは非常に重要なポイントです。なぜなら、これは逆に言えば「法的な権利や利益が侵害されたわけでなければ、損害賠償請求はできない」という意味だからです。
よく慰謝料請求というのは、「精神的な損害を受けたことに対する賠償金だ」と言われます。それはその通りなのですが、例えば、結婚していないフツ-の恋愛カップルが浮気をしたとしても、相手に慰謝料請求はできませんよね?
つまり慰謝料は、「単に心に傷を負ったから請求できる」というものではないのです。何かしら、「法律で保護されるべき権利や利益」が不法行為によって侵害されたという事実がなければ、法律に基づく慰謝料請求はできません。
繰り返しますが、恋愛しているカップルが浮気することは違法ではありません。倫理的に問題はあるかもしれませんが、少なくとも(婚約関係、内縁関係の場合を除けば)法律に触れる行為ではありません。
恋愛というのは法的に拘束される関係ではありませんので、それを破ったからといって、誰かの法律上の権利や利益が侵害されるわけではないからです。
一方、結婚というのは男性と女性のいわば契約行為ですので、法律上も保護される権利(利益)です。そのため、婚姻関係を不法に侵害することは、法律上も違法となります。
結婚している夫婦の場合は、不倫は法律上の「離婚原因」(民法770条)となります。
つまり不倫をした夫と相手の女性は、離婚原因を意図的に作り出したことにより「婚姻生活の平和を維持する権利」を侵害したことになりますので、法的に慰謝料請求が可能になるのです。
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
(1)配偶者に不貞な行為があったとき(民法770条)
なお、これは実際に「離婚したかどうか」は関係ありません。「法律上の離婚原因となる行為をした」という事実こそが、婚姻生活に対する権利侵害だからです。
もちろん最終的に離婚した方が慰謝料の請求額は大きくなりますが、離婚をしなくても民法709条の不法行為が成立する以上は、慰謝料請求をすることが可能になります。
夫の不倫が不法行為にならない場合
なお、結婚中の夫が不倫しても「不法行為にならない」ケースがあります。夫と浮気相手の女性が不倫をしはじめた当時、既に実質的に婚姻関係が破綻していた場合です。
これは非常に重要なポイントなので知っておいてください。
先ほどから説明しているように、不倫がなぜ「不法行為」になるのかといえば、不倫が「婚姻生活の平和を維持する権利」を侵害するからです。逆にいえば、最初から婚姻生活が既に破綻していた場合は、その後に不倫をしたとしても(侵害する保護法益がないため)不法行為が成立しません。
そのため、離婚裁判や慰謝料の訴訟では、よく不倫した夫や相手の女性側の弁護士が「不倫前から実質的に婚姻関係が破綻していた」「だから不法行為はなく、慰謝料も発生しない」ということを主張してくるケースが多いです。
例えば、夫が不倫しはじめた当時、既に5年以上に渡って別居生活を送っていたなど、客観的に「婚姻関係が破綻していた」ことが立証できる場合は、慰謝料を請求できないケースがあります。
さて、もし妻帯者の夫が違う女性と不倫をした場合、妻は夫と浮気相手の女性のどちらに慰謝料を請求できるのでしょうか? あるいは2人ともに請求できるのでしょうか?
不倫という行為は、夫と相手の女性の両方の意思がなければ実行できません。このように複数人が関与して誰かの法的権利を侵害することを、民法上は「共同不法行為」といいます。
共同不法行為による損害賠償は、2人が共同で責任を負わなければなりません。そのため不倫による慰謝料の支払いも、原則として夫と浮気相手の女性が共同で責任を負うことになります。
1.数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。(民法719条)
ただし最初に説明したように慰謝料請求というのは、民法709条の損害賠償請求権ですが、この条文の要件になるのは「故意または過失によって・・・侵害した者」です。
つまり浮気相手の女性が、「夫が既婚者であること」「不倫関係であること」を全く知らなかった場合は、浮気相手の女性に対して慰謝料を請求することはできません。
慰謝料はどっちに幾らずつ請求できるの?
浮気相手の女性が、既婚者であることを知りながら夫と不倫をしていた場合には、不倫は共同不法行為になり、2人ともが損害賠償責任を負います。この場合の債務を「不真正連帯債務」といいます。
また難しい言葉が出てきましたが、簡単にいうと「どちらか片方だけに慰謝料を請求してもいいし、両方に慰謝料を請求してもいい」ということです。
例えば、不倫(共同不法行為)による慰謝料の算定額が300万円だった場合、妻は、夫だけに300万円を請求することもできますし、不倫相手だけに300万円を請求することもできますし、両方ともに300万円ずつ請求することもできます。
ただし、合計で300万円以上を受け取ることはできません。
つまり慰謝料の300万円をどっちに幾らずつ請求するかは妻の自由ですが、2人合わせて300万円までしか受け取ることはできない、ということです。
夫と不倫相手の責任割合は?
不倫による慰謝料請求というのは、離婚した場合だけでなく、「離婚しなかった場合」でも請求することができます。
しかし離婚しない場合は、妻は夫に慰謝料を請求してもあまりメリットがありません。夫婦の財布は1つだからです。そのため、実際によくあるケースとして、妻が不倫相手の女性だけに多額の慰謝料を請求するケースがあります。
この場合、夫は1円も慰謝料を負担しないのに、不倫相手の女性は妻に300万円の慰謝料を支払わなければなりません。でもこれって少しおかしいですよね。不倫関係でどちらが悪いかといえば、通常は既婚者でありながら不倫をした夫の方が罪は重いはずです。
不倫した夫と、浮気相手の女性との責任割合は、「どちらが積極的に不倫を主導したか?」「どちらが誘惑したか?」等にもよるので一概には言えませんが、一般的には以下のようになります。
登場人物 | 責任割合 |
---|---|
不倫した夫 | 5~7割 |
浮気相手の女性 | 3~5割 |
つまり不倫による慰謝料が300万円であれば、本来は夫が150万円~200万円を負担して、浮気相手の女性は100万円~150万円を負担すればいいことになります。
少しややこしいですが・・・
もう少しだけ具体的に説明しましょう。例えば、妻が浮気相手の女性だけを対象に「500万円払え!」というような慰謝料訴訟を提起したとします。
この場合、裁判所はまず「本件の不貞行為の慰謝料は300万円が相当である」というように妥当な慰謝料の金額を決定し、その上でもし夫の方が責任が重く、浮気相手の責任は副次的なものだと判断すれば、「浮気相手の女性は(100万円を減額して)200万円を支払え」といった判決を下します。
この時点で、浮気相手の女性は200万円の支払い債務を負い、夫は(潜在的には)300万円の支払い債務を負うことになります。妻が受け取ることのできる金額は、合計で300万円までです。
このような場面では、妻は不倫相手の女性だけに200万円を請求することができますし、夫には1円も請求しないこともできます。しかし、そのままだと浮気相手の女性と、夫との間では不公平が生じます。浮気相手の女性が負っている債務はあくまで夫との連帯債務のはずです。
そのため、実際に不倫した女性が200万円の全額を支払った場合には、後で女性は夫に半分の100万円の支払いを求めることができます。これを求償権といいます。
しつこいようですが、共同不法行為の損害賠償責任は「不真正連帯債務」ですから、妻は必ずしも責任割合(夫2:相手の女1など)で請求する必要はありません。妻は、どちらにいくらずつ請求しても自由であり、不倫相手の女性だけに200万円の全額を請求することもできます。
しかしその場合は、不倫相手の女性は、後で払い過ぎた分を夫に請求(求償)することができます。
「妻は、夫と相手の女性どちらにいくらずつ請求しても良い」という仕組みになっているのは、慰謝料の取りっぱぐれを回避するためです。責任割合に応じて、夫に100万円、浮気相手の女性に100万円ずつしか請求できないとなると、例えば、相手の女性が自己破産した場合、100万円分については回収が不可能になってしまいます。そのため、「妻はどちらにいくら請求しても良い」「後で夫と浮気相手の女性の2人で調整してくれ」ということが認められています。
では次に、離婚裁判や慰謝料請求において、「どこからが浮気なのか?」という問題について解説します。
法律上どこからが「不倫」になるの? 証拠はどうする?
ここまで散々、「不倫」「浮気」という言葉で解説してきましたが、これらももちろん法律用語ではありません。法律上は「不貞行為」といいます。
先ほども解説したように、不貞行為は法律上の離婚原因になります(民法770条)ので、れっきとした不法行為なわけですが、では「どこからが民法上の不貞行為になるのか?」という疑問が生じます。
例えば、キスだけならどうなのか?、手を繋いだり2人きりでデート(食事や映画など)に行ったらどうなのか?、風俗に行ったらどうなのか?、親密なメールのやり取りはどうなのか?、という問題です。
法律上の不貞行為として慰謝料請求の対象になるのは、基本的には「性交または性交類似行為」のことをいいます。単なるメールのやり取りやデート等だけでは、民法上の不貞行為にはなりません。
これについては、昭和48年11月15日の最高裁判決が根拠になります。
不貞な行為とは、配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう。(最高裁判所第一小法廷判例)
性交渉の有無を証明するのは難しい
しかし裁判で実際に慰謝料請求(損害賠償請求)をしようと思った場合、「不法行為があったかどうか?」の立証責任は被害者側の妻にあるわけですが、夫と不倫相手との間に性交渉があったかどうかを証明するのは不可能に近いはずです。
性行為の現場がスマホの動画や画像で残っていれば別ですが、そのようなケースは実際にはほとんどありません。性交渉があったことを証明できないと不貞行為にならないのであれば、最悪、夫が「たしかにラブホテルには入ったけど、相談に乗ってただけだよ」と開き直れば不貞行為が成立しないことになってしまいます。
そのため、直接的な肉体関係の有無が立証できない場合でも、それを推認できる行為があれば、不貞行為の存在が認められる可能性があります。
性交渉が推認できれば慰謝料請求はできる
たしかに「親密なメールのやり取り」や、「手を繋いだりキスしていた」「2人きりでのデート」等の行動は、そのものが直接的に不貞行為になるわけではありませんが、それにより性行為が推認できる場合は不貞行為として慰謝料請求の対象になります。
例えば、明らかに肉体関係があったことを伺わせるメール内容だったり、2人きりで旅行にいって同じ狭い部屋に宿泊した事実だったり、ラブホテルから2人で出てくる現場だったり、を証拠として押さえている場合、性行為が推認できます。
- 肉体関係があったことを伺わせるメールやLINEのメッセージ
- 2人でラブホテルに出入りしていたことの写真や報告
- 2人で旅行したり同じ部屋に外泊していた証拠や領収書など
- 不倫相手の女の家に泊まったり同棲している証拠など
先ほどの例でいえば、「ラブホテルに入ったけど、何もなかったよ」という言い訳は通用しません。社会常識的に考えれば、ラブホテルに男女2人で入るということは、性交またはそれに類似する行為があった、と推測するのが自然だからです。
風俗に行くのも「不貞行為」になるので注意
一般的には、風俗に行くことを「浮気」や「不倫」とは表現しません。そのため、たまに「風俗に行くのは別に離婚原因や慰謝料の対象にはならない」と勘違いされている方がいます。
しかし風俗に遊びにいくのも、性交類似行為である以上は、夫婦の貞操義務に反する行為ですから「不貞行為」になります。それを妻が絶対に許せないと思った場合は、離婚原因になりますし慰謝料を請求されます。
もちろん、この場合でも風俗嬢の方に慰謝料を請求することはできません。先ほども述べたように、不法行為は「故意または過失による不貞行為」でなければ成立しません。一般的には風俗嬢の方は、男性が既婚者かどうかをいちいち確認しませんよね。
また、風俗嬢の方は仕事としてお金を受け取って接客をしているわけで、自由意思で不貞行為に関与しているわけではありませんので、風俗嬢の方に不法行為の責任を追及するのは不可能です。
慰謝料が請求できるかどうか裁判で争いになる場合
離婚の慰謝料の支払い額は、和解して決める場合はいくらでも構いません。例えば、妻が「慰謝料を1000万円請求する」といって、夫や不倫相手の女性が「わかりました」といえば(示談書や離婚協議書に署名すれば)それで終わりです。
しかし裁判で争う場合には、夫や不倫相手はあくまで「不法行為はなかった」と主張してくる可能性は十分あります。例えば、以下のような主張がもし認められれば、夫や不倫相手に慰謝料の支払い義務がなくなります。
裁判での相手のよくある主張
- 性的行為やそれに類似する行為は一切なかった
- 不倫関係になる前から、既に夫婦の婚姻関係は破綻していた
- (不倫相手の女性が)夫が既婚者だとは知らなかった
これらは上記で解説したように、もし主張が認められれば不法行為が成立しませんので、慰謝料を請求することができません。(理由がわからない方は、最初から読み返してください!)
最初の(1)は既に解説したように、原則、性交または性交類似行為がなければ民法上の不貞行為とは認められません。これは単に証拠固めの問題です。立証責任は妻側にありますので、性行為の有無を推認できるだけの状況証拠(メール内容やホテル出入りの目撃、外泊や同棲の事実など)を集める必要があります。
自分で証拠集めをするのが難しい場合は興信所や探偵事務所などに依頼するケースも多いです。
ここからが実際に法廷で争点になりやすいポイントです。夫と浮気相手の女性が不倫関係になった当時、夫婦の婚姻関係が実質的に破綻していた場合には、不法行為が成立しないことは既に説明しました。
そのため、夫や不倫相手の女性は当然、裁判で「既に夫婦の関係が破綻していた」という主張をしてくる可能性があります。では、「婚姻関係が破綻していた」とは具体的にどのような状態を言うのでしょうか?
婚姻関係の破綻が裁判所に認定されるためには、ただ単に夫婦のどちらか一方が「もう結婚生活はやっていけない」と心の中で思っているだけではダメで、第三者が客観的にみても「破綻している」と判断できる事実が必要です。
長期間に渡って別居していた場合
一番わかりやすいのは「別居」ですね。
夫と浮気相手の女性が不倫関係になるずっと前から、不仲により長期間に渡って別居生活が続いていた場合には、「既に婚姻関係が破綻していた」と認められる可能性があります。(もちろん、単に出張や単身赴任で別居している場合はダメです。)
長期間というのがポイントで、一時的な喧嘩で別居しているだけだと「夫婦関係の改善修復は可能」と判断されれば、破綻は認められません。具体的な目安でいえば、5年~10年程度の別居期間があれば、離婚原因としても認められるレベルですので、「実質的な破綻」が認められる可能性はあります。
またもっと別居期間が短い場合でも、他に「暴力」などの明確な離婚原因がある場合には、破綻が認められる可能性があります。
家庭内別居やセックスレスの場合
「家庭内別居がずっと続いていた」「夫婦間で会話もない状態がずっと続いていた」「ずっとセックスレスが続いていた」というのは、客観的な事実認定や程度の評価が難しいため、これらの事実だけで婚姻関係の破綻が認められることはあまりありません。
夫婦間である程度、このような不仲や喧嘩があるのは当たり前ですし、これらで簡単に破綻を認めることになれば、ほとんどの夫婦の婚姻関係が破綻していることになってしまいます。
「婚姻関係の破綻」の認定は簡単ではない
離婚裁判や慰謝料訴訟では、被告は「慰謝料請求を免れたい」という一心で、「当初から2人は別居関係にあった」「いつも絶えず喧嘩をしていた」「家庭内では口も聞いていなかった」など、あの手この手で「婚姻関係の破綻」を主張してくることが多いです。
しかし実際には、慰謝料請求訴訟において「婚姻関係の破綻」が認定されるケースは実はあまりありません。
裁判所としても、これらの主張を簡単に認めてしまうと不貞行為による慰謝料が0円になってしまいますので、あまり軽々に認めるわけにはいきません。
そのため、判決では「破綻寸前だった」「不満があった」「形骸化していた」などの表現で、一部、婚姻関係が悪化していたことを認めることが多く、これらを慰謝料の減額要因として用いることはありますが、「破綻していた」とまで言い切ってしまうケースはどちらかというと稀です。
夫の浮気相手である女性にも慰謝料を請求している場合、女性側からは「既婚者だとは知らなかった」といった主張がされることがあります。
不法行為は「故意または過失による行為」でなければ成立しません(※前述)ので、もし本当に夫が婚姻関係にあることを知らなかった場合は、少なくとも浮気相手の女性側には婚姻関係を壊す意図も過失もなかったことになりますので、慰謝料請求ができなくなります。
これもメールやLINEのメッセージ等から、「婚姻関係にあることを知っていた」と立証できるかどうかがポイントになります。もちろん、妻が過去に直接コンタクトを取って文句を言っていたり、内容証明郵便などで不倫を辞めるように通知をしていれば、証拠になります。
また一度でも既婚者であることを認識していた場合は、その後に夫に「結婚生活がうまくいっていないから」「もうずっと別居していて、夫婦関係は破綻しているから」「先月、離婚したから大丈夫」などと言われて、それを鵜呑みにして信じていたとしても、裁判所に「過失がある」と判断される可能性があります。
浮気相手の女性が、夫の婚姻関係をキチンと確認しなかったことについて「過失があった」場合には、故意でなくても慰謝料請求は可能です。
途中で不倫に気付いた場合
また、浮気相手の女性が「最初は不倫だと知らなかったけど、途中で既婚者だと気付いた」というケースもあります。この場合は、気付いた時点で不倫を辞めているかどうかが重要なポイントです。
不倫に気付いた後も、夫と2人で会って不貞行為(性交渉)を重ねて行っていた場合には、当然、慰謝料を請求することができます。一方、「不倫に気付いた後は夫には一切会っていない」という場合は、浮気相手の女性に慰謝料を請求することはできません。
不倫の慰謝料はいつまで請求できる?慰謝料の消滅時効
慰謝料の請求権には時効があります。不法行為による損害賠償請求権の時効は、「損害および加害者を知った時から3年」です。つまり不倫から3年以上が経過すると、慰謝料請求ができなくなります。
まずは根拠となる条文を確認しておきましょう。
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。(民法724条)
ただし、ここで心配なのは「どの時点から起算して3年間なのか?」という問題です。
「不倫していることに気付いた時から3年なのか?」「不倫関係が終わった時点から3年なのか?」「離婚した時点から3年なのか?」で、全然、時効が成立する時期が変わってくるはずです。
夫の不倫が原因で実際に離婚した場合には、離婚した事実こそが不法行為による一番の「損害」になります。そのため、離婚した場合の慰謝料請求権の時効は、離婚が成立した時点(損害を知った時点)から3年間です。
不倫が原因で夫婦関係が悪化した場合でも、離婚調停だったり、財産分与や養育費の協議だったりで、実際に離婚が成立するまでに時間がかかることはよくあります。そのため、例え不倫が発覚した時点から3年以上が経過していたとしても、離婚が成立した時点から3年が経過していなければ、妻は慰謝料の請求が可能です。
離婚した後に不倫に気付いた場合
では、離婚した後になって、当時(婚姻中)に夫が不倫していた事実が発覚した場合はどうでしょうか? この場合には、時効は離婚成立の時点ではなく、「不倫に気付いた時点」から3年間になります。
そのため離婚から3年以上が経過している場合でも、後から不倫が発覚した場合には、元妻から慰謝料を請求される可能性があります。
ただしこの場合は、そもそも不法行為が成立しないケースもあります。ここまで何度も説明しているように、不法行為とは「誰かの法的権利や利益を侵害した場合」にしか成立しませんので、既に婚姻関係(保護法益)が破綻した後に、妻が夫の不倫に気付いた場合、夫の不倫と婚姻関係の破綻に因果関係がないと判断されれば、不法行為にならない可能性もあります。
実際に平成22年4月20日の東京地裁判決では、既に婚姻関係が破綻して後に不貞に気付いたケースについて、「法律上保護される利益を害したものとは認められない」として慰謝料請求を棄却しています。
そのためこのような場合、元夫はそもそも不法行為かどうかを裁判で争うこともできます。
離婚しなかった場合の慰謝料請求権
では、夫と離婚しなかった場合はどうでしょうか?
すぐに離婚しなかった場合でも夫婦間の慰謝料請求権は、将来、離婚するときまで時効が停止します。つまり不倫してから3年以上が経過していても、夫婦間では時効になりません。
この根拠になるのは民法159条です。
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6カ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。(民法159条)
なぜ夫婦間だけこんな特別なルール(条文)があるかというと、通常、婚姻中の夫婦間で慰謝料を請求してもあまり意味がないからです。夫婦間の家計や財布は1つですから、婚姻期間中に夫が妻に慰謝料を支払ったとしても、自分の財布で自分に支払うようなもので、あまりメリットがありません。
そのため婚姻期間中に発生した慰謝料請求権は、離婚するときまで保留にしておいて、離婚した時に請求することが認められているのです。
たまに「不倫の慰謝料請求は3年まで」という常識が広まり過ぎていて、夫が「過去に不倫して妻にバレたことがあるけど、もう3年以上経過してるから時効だろ」と勘違いしていることがありますが、婚姻中の間は時効は完成しませんので、将来、離婚したときに慰謝料請求される可能性はあります。
また離婚から6カ月以上が経過して、不貞行為そのものの慰謝料請求権が時効になったとしても、夫の不貞のせいで最終的に離婚になった場合(夫が有責配偶者の場合)には、妻は離婚そのものに対する慰謝料請求が可能です。こちらは離婚の成立から3年間は請求できます。
不貞行為そのものに対する慰謝料を「離婚原因慰謝料」、離婚そのものに対する慰謝料を「離婚自体慰謝料」といいますが、実務上は、これらを一々区別して請求することはしませんので、やはり原則、有責配偶者である夫は離婚から3年間は慰謝料の支払い義務を負うことになってしまいます。
次に不倫相手の女性への慰謝料請求権について考えてみましょう。不倫相手への慰謝料請求は、やはり短期消滅時効(民法724条)が成立しますので、時効は3年です。
ではこの時効の開始時点はどこかというと、不倫相手の女性の「住所と氏名を知ったときから3年」です。単に顔を認識したとか、メールアドレスやLINEを知っている、というだけでは消滅時効は開始しません。
これは簡単な話で、メールアドレスやLINEだけでは裁判所に相手を訴えることはできないからです。
民法724条では時効の成立について、「加害者を知った時から3年」と定められていますが、これは「現実に損害賠償請求ができる程度に相手の情報を知った時」という意味に解釈されます。例えば、夫や浮気相手の戸籍謄本を取り寄せた時点等が、具体的な消滅時効の起算点になります。
浮気相手への慰謝料請求は早めに
このように、夫への慰謝料請求権は「すぐに離婚はしない」「一回は夫を許す」という決断をしたとしても、将来、離婚する時まで時効が成立することはありませんが、浮気相手への慰謝料請求権は3年経てば消えてしまうことになります。
そのため、もし「せめて浮気相手の女性からは慰謝料を取りたい」と考えるのであれば、こちらはなるべく早めに慰謝料請求をする必要があります。仮に消滅時効が成立しない場合でも、基本的に時間が経過すればするほど、請求できる慰謝料の金額も低くなります。
ただし重要なポイントとして、時効の成立というのは法的に「慰謝料の請求ができなくなる」わけではありません。慰謝料を請求しても、相手方が「時効が成立しているから、もう支払わないよ!」と言える権利がある、という話です。
「時効が成立しているので、もう慰謝料は支払いません」という意思を表明することを時効の援用といいますが、この時効の援用をしなければ、夫や浮気相手の女性は時効の利益を受けることができません。
通常は、相手方に内容証明郵便で「時効を援用する」という旨を通知すれば終わりですが、法律知識のない方だと、そもそも時効が成立していることを知らず、相手方の弁護士に良いように言いくるめられて債務を承認してしまうケースがあります。
この債務承認をしてしまうと、以後、時効の援用ができなくなってしまいますので注意してください。例えば、時効の成立後に慰謝料の支払いに関する示談書に署名してしまったりすると、時効の援用ができなくなります。
債務承認にあたるケース
- 慰謝料の一部だけを返済してしまう行為(一部弁済)
- 支払い猶予の申し入れや、慰謝料の減額を交渉する行為
- 利息を返済する行為や、担保を供与する行為
- 示談書や債務承認書への署名、公正証書の作成
これらはいずれも債務が存在することを前提とした行為で、いわば「慰謝料を支払うことを認めた」ことになってしまいます。時効の援用を主張する場合は、「時効なので支払い義務はない」ということだけを通知してください。
不倫による離婚慰謝料の金額の相場について
最後に離婚による慰謝料の金額の相場について解説します。慰謝料の支払い額は、被害者である妻と加害者である夫や浮気相手が、支払い金額について合意している場合は金額は自由です。
そのため、1000万円だろうと1億円だろうと、請求するだけ請求してみることはできます。しかし当然、相手が和解を拒否した場合には、訴訟で決着をつけるしかありませんので、過去の判例(相場)を基準とした支払額が命じられることになります。あまりに法外な金額を請求しても、裁判では認められません。
訴訟になった場合の不倫による慰謝料の支払額は、離婚した場合で200~300万円、離婚しなかった場合で50~200万円くらいが相場です。これが不倫をした夫と浮気相手の女に請求できる合計金額の上限です。
相手がタレントや資産家であるなどの特殊なケースを除けば、500万円以上の高額な慰謝料が裁判で認められるケースはほとんどありません。不倫に対する離婚慰謝料で「500万円以上というのは法外な請求だ」という知識は持っておくといいかもしれません。(もちろん財産分与は別の話です)
また前述のように慰謝料の支払いは不真正連帯債務なので、例えば損害額が200万円であれば、夫だけに200万円請求したり、浮気相手の女性に200万円請求したり、夫と浮気相手に100万円ずつ請求することは可能ですが、両方から200万円ずつ取ることはできません。
およそ100~300万円程度の慰謝料相場のなかで、具体的にいくらで落としどころを付けるのか、というのは非常に難しい問題です。
当事者間の協議であれば、おおよそで適当に決めても問題ないでしょうが、根拠を元にきちんと算定するとなると色々と複雑な「増額要素」「減額要素」が絡み合ってきますので、素人が簡単に算出できるようなものではありません。
そもそも不貞慰謝料では、正確な被害額の算定というのはできません。例えば「不倫期間が3年以上だと20万円加算」といったような明確な基準があるわけではないので、最終的には様々な背景を考慮した上で、過去の類似ケースをもとにアバウトに決めるしかありません。
一応、以下主な慰謝料の増額要因と減額要因を解説します。が、結局は弁護士などの専門家に相談したり、裁判で争わない限り、妥当な金額で決着をつけるのは難しいと思います。
慰謝料の基本的な考え方
まず前提となる基本的な考え方として、「不倫が発覚する前」と「不倫が発覚する後」の落差が大きければ大きいほど、慰謝料の算定額は大きくなります。
例えば「凄く円満な関係の夫婦が、不倫の発覚によって離婚してしまった場合」というのは、落差がピークになりますので、請求できる慰謝料の額は大きくなります。逆に「既にもともと婚姻関係が破綻していた夫婦が、不倫の発覚により離婚した場合」だと、そもそも不法行為が成立せず、慰謝料が発生しない可能性があるのは前述のとおりです。
この基本的な考え方を基にすれば、例えば「もともと夫婦関係が悪かった場合」は、慰謝料の減額要因として考慮されますし、また「不倫の発覚後に離婚していない場合」は、離婚した場合ほどの慰謝料は望めないことがわかります。
鬱病など具体的な損害がある場合
そもそも「精神的な苦痛による損害」というのは、他人が客観的に評価することが難しいものではありますが、「不倫のショックで鬱病になった」などの具体的な損害があり、それを医師の診断書などで証明できる場合は、当然、慰謝料の算定額も高くなります。
夫の社会的地位や収入
夫の社会的地位や収入が高い場合には、慰謝料の支払い額も高くなるケースがあります。しかし基本的には不倫という不法行為による損害(精神的ショック)の度合いは、別に夫の年収が高かろうと低かろうと、直接的には関係ありません。
収入の高い夫の浮気の方が、収入の低い夫の浮気よりも悪質だ、とするのは、論理的に無理があります。なので実際には、裁判で社会的地位や収入が考慮されるのは例外的なケースです。
もちろん裁判ではなく和解交渉の場合は、収入や社会的地位の高い夫が裁判沙汰になるのを面倒に感じて、「相場よりも高い慰謝料の金額で合意する」ということは、現実的にあり得ると思います。
結婚生活の期間
結婚生活の期間が長ければ長いほど、慰謝料の金額も高く算定されます。例えば、結婚して2年の夫婦の不倫による離婚と、結婚して30年の夫婦の不倫による離婚では、後者の方が「離婚による損害が大きい」と判断されますので、慰謝料の算定額も高額になります。
不倫の期間や回数
夫が不貞行為を働いていた期間が長ければ長いほど、または性的関係を持った回数が多ければ多いほど、当然、慰謝料の金額は高く算定されます。また夫と浮気相手の女の責任割合でいえば、より積極的に不倫に誘った側が慰謝料の算定額が高くなります。