離婚調停と離婚訴訟と、財産分与等の家事審判の違いは?
離婚訴訟をするためには、前提として先に離婚調停をしなければならない、というのはご存知の方も多いでしょう。これを調停前置主義といいます。しかし「慰謝料請求だけなら単独で訴訟できるの?」「財産分与や養育費は、審判の申立てをするの?」「審判と訴訟の違いって何なの?」「離婚訴訟とセットでなら訴訟できるの?」など、知れば知るほど混乱してくるのが離婚問題です。今回は、離婚における訴訟・調停・審判の違いをわかりやすく解説します。
夫が離婚協議に応じてくれないから、裁判所に離婚を認めて貰いたいんだけど、その場合って「離婚訴訟」と「離婚調停」のどっちを申立てればいいのかなー?
夫は「絶対に離婚なんてしない」って言ってるし、全然、話し合いにも応じる気配なんてないけど。もし調停を申し立てても、期日に夫が出頭して来なかったらどうなるの?
あと、離婚とあわせて財産分与や慰謝料も請求したいんだけど、これも調停をしないとダメ? 養育費や財産分与の問題は、家事審判で決まるって聞いたことがあるんだけど、訴訟とは違うものなのー?
- 家事事件は、主に「訴訟で扱うもの」「審判で扱うもの」に分類される
- 離婚そのものは訴訟で決まる。養育費や財産分与の請求は審判で決まる。
- 離婚訴訟のなかで附帯処分として養育費・財産分与を決めて貰うことも可能
- 離婚訴訟(人事訴訟)については、まず先に調停をしなければならない
- 慰謝料請求は民事訴訟の話だが、離婚訴訟と併合するなら、先に調停が必要
1.離婚調停や訴訟と、養育費や財産分与の審判は何が違う?
2.離婚訴訟や慰謝料請求訴訟には、調停前置主義がある
3.「訴訟」「調停」「審判」の仕組みとそれぞれの流れ
4.家事調停は、話し合いによって平和的に解決する方法
5.審判は、訴訟よりはやや簡易的な裁判所による決定
離婚調停や訴訟と、養育費や財産分与の審判は何が違う?
今いち、家庭裁判所による「調停・審判」と、地方裁判所や簡易裁判所による「訴訟」の違いがよくわからない方も多いと思います。
例えば、裁判所に離婚を認めて貰おうと思ったら、まずは必ず離婚調停からスタートさせなければいけません。もし離婚調停で話し合いをした結果、調停が不成立になれば、最終的に訴訟(=裁判)で決着を付けることができます。
養育費や財産分与、慰謝料を請求する場合は、これが離婚成立前であれば、やはり同じくまずは離婚調停のなかで話し合うことになります。調停が不成立に終わった場合は、離婚訴訟のなかで養育費や財産分与、慰謝料をあわせて決定します。
一方、離婚成立後に、養育費や財産分与を単独で請求する場合は、これらはすべて家庭裁判所による審判事件なので、原則として訴訟することはできません。調停または審判によって解決しなければなりません。
離婚慰謝料については、離婚成立後であれば、民事訴訟としていきなり最初から訴訟をおこすこともできます。以下、簡単な図にまとめてみました。
家庭裁判所で取り扱うことのできる事件の分類は、さらに細かくてややこしいです。
聞いたことがあるかもしれませんが、家事事件には「調停事件」と「審判事件」という分類があり、さらに「別表第1事件」「別表第2事件」という分類があります。
調停事件にも「一般調停事件」と「特殊調停事件」があります。さらに、これらとはまた別の概念で、家庭裁判所は「人事訴訟」の専属管轄(職分管轄)でもあります。
家事事件 | 内容 | 例 |
---|---|---|
調停事件 | 家事事件のうち、調停をすることができる紛争をいいます。以下の「審判事件 別表第2」「一般調停」「特殊調停」に分類されるものは、調停を申立てることができます。特に後者2つに関しては、必ず先に調停をしなければなりません(調停前置主義)。 | - |
審判事件 別表第1 |
家事事件のうち、裁判官が審判で決定を下すことのできるもので、かつ、調停をすることができないものをいいます。私人同士の争いがなく、単に裁判所が決めれば終わる種類の事件です。 | 成年後見開始、保佐開始、失踪宣告、養子縁組の許可、子の氏変更など。 |
審判事件 別表第2 |
家事事件のうち、裁判官が審判で決定を下すことのできるもので、かつ、調停をすることができるものをいいます。主に私人2人以上の間で争いがあるものです。 | 財産分与、婚姻費用の分担、親権者の指定、養育費、年金分割、遺産分割など |
一般調停事件 | 主に、離婚の訴えなど、身分関係にかかわる訴訟(人事訴訟といいます)で、調停はしなければならないけど、審判で解決することはできないものをいいます。調停の不成立後は、家庭裁判所に訴えを提起します。 | 離婚の請求 |
特殊調停事件 | 主に、身分関係にかかわる訴訟(人事訴訟)で扱われるもののうち、訴訟ではなく審判によって解決することもできる事件です。前提として調停での話し合いが必要です。 | 嫡出否認の訴え、親子関係の不存在確認の訴えなど |
調停事件 |
---|
家事事件のうち、調停をすることができる紛争をいいます。以下の「審判事件 別表第2」「人事訴訟」に分類されるものは、調停を申立てることができます。さらに人事訴訟に関しては、必ず先に調停をしなければなりません(調停前置主義)。 |
審判事件 別表第1 |
家事事件のうち、裁判官が審判で決定を下すことのできるもので、かつ、調停をすることができないものをいいます。私人同士の争いがなく、単に裁判所が決めれば終わる種類の事件です。 |
例 |
成年後見開始、保佐開始、失踪宣告、養子縁組の許可、子の氏変更など。 |
審判事件 別表第2 |
家事事件のうち、裁判官が審判で決定を下すことのできるもので、かつ、調停をすることができるものをいいます。主に私人2人以上の間で争いがあるものです。 |
例 |
財産分与、婚姻費用の分担、親権者の指定、養育費、年金分割、遺産分割など |
一般調停事件 |
主に、離婚の訴えなど、身分関係にかかわる訴訟(人事訴訟といいます)で、調停はしなければならないけど、審判で解決することはできないものをいいます。調停の不成立後は、家庭裁判所に訴えを提起します。 |
例 |
離婚の請求 |
特殊調停事件 |
主に、身分関係にかかわる訴訟(人事訴訟)で扱われるもののうち、訴訟ではなく審判によって解決することもできる事件です。前提として調停での話し合いが必要です。 |
例 |
嫡出否認の訴え、親子関係の不存在確認の訴えなど |
比較まとめ表
種類 | 調停 | 審判 | 訴訟 |
---|---|---|---|
審判事件 別表第1 | できない | できる | できない |
審判事件 別表第2 | できる | できる | できない※1 |
一般調停事件 | 必須 | できない※2 | できる |
特殊調停事件 | 必須 | できる | できる |
審判事件 別表第1 | ||
---|---|---|
調停 | 審判 | 訴訟 |
できない | できる | できない |
審判事件 別表第2 | ||
調停 | 審判 | 訴訟 |
できる | できる | できない※1 |
一般調停事件 | ||
調停 | 審判 | 訴訟 |
必須 | できない※2 | できる |
特殊調停事件 | ||
調停 | 審判 | 訴訟 |
必須 | できる | できる |
※1・・・審判事件別表第2の訴訟は例外的に「附帯処分」の場合のみ可(人事訴訟法32条)
※2・・・一般調停事件の審判は例外的に「調停に代わる審判」の場合のみ可(家事事件手続法284条)
なんだか難しくて頭が痛くなってきそうですよね。
でも、これら全部の定義を1つ1つ理解する必要なんて全くありません。ここで押さえておいて欲しいのは、財産分与、養育費など離婚上の多くの問題は「審判事件 別表第2」に分類されているということ、離婚の請求そのものは「一般調停事件」に分類されているということ、だけです。
以下、離婚訴訟(または養育費・財産分与の請求)をするにあたって、知っておいた方がいいことを3つだけまとめました。とりあえず、家事事件の分類については、以下のことだけわかっていれば完璧です。
訴訟に分類されるもの
「離婚請求」と「慰謝料」は訴訟事件です。つまり最終的には訴訟で解決すべき事案になります。もし調停をしても話し合いがまとまらず、調停が不成立に終わった場合は、審判には移行せずに手続きが終了します。裁判所に離婚を認めて貰うためには、その後、あらためて裁判所に訴状を提出して「訴訟」を提起する必要があります。
審判に分類されるもの
「養育費」「財産分与」「親権者指定」「婚姻費用の分担」「子の引渡し」「面会請求」などはすべて、審判事件に分類されます。これらは、話し合いによる調停からスタートすることもできますし、いきなり審判を申立てることもできます。調停からスタートさせた場合でも、話し合いが上手くいかず、調停が不成立になれば、そのまま自動的に審判に移行します。訴訟には行きません。
附帯処分にできるもの
審判対象事件に分類される「財産分与」「養育費」「年金分割」「親権者の指定」は、本来は訴訟で争うことはできません。しかし離婚訴訟とセットで附帯処分としてであれば、財産分与・養育費を、裁判の判決によって決めて貰うことができます。つまり、離婚そのものを訴訟で争うときの「ついで」であれば、財産分与や養育費、親権者指定についても裁判で争うことができます。(人事訴訟法32条)
まず先にざっくり言っておくと、審判というのは、要するに、訴訟よりも簡単かつ手軽に、裁判所が最終判断を下すことのできる決定のことなんですね。
つまり調停で話し合ったけどダメだった場合に、そのまますぐに「審判」で裁判所の結論を貰うか、もっと厳格で大変な「訴訟」に移行して争ってから裁判所の結論を貰うか、というところに大きな違いがあります。
「離婚を認めるかどうか?」は重要な問題ですし、法律上の争点や、じっくり調べないといけない証拠が色々あるかもしれません。そのため、離婚そのものについては、調停の話し合いで決まらなくても、そのまま審判で決定せずに、もっと厳格な裁判である「訴訟」にまで持っていきます。
ただし稀に、調停が不成立に終わった後に、そのまま「調停に代わる審判」として離婚の審判が下されることもあります。これを審判離婚といいますが、しかし、これはかなり例外的なケースです。
審判離婚とは、離婚調停でほぼ離婚の合意が成立している場合に、裁判所が職権で最終的な条件だけ詰めて、離婚を成立させることです。例えば、夫婦2人とも離婚することには納得しているものの、財産分与の細かい条件が決まらないだけの場合に、そのまま審判で最終的な決定をして離婚を成立させることがあります。
このように審判離婚のような例外はありますが、原則は、離婚調停が不成立に終わった場合、その次は訴訟です。調停不成立証明書を提出することで、家庭裁判所にあらためて離婚訴訟を提起することが可能になります。
慰謝料請求はもともとの性質は「不法行為による損害賠償請求」なので、交通事故などと同じで民事訴訟の話です。こちらも審判事件ではありませんので、審判によって決定することはできません。
離婚訴訟とあわせて慰謝料を請求するのであれば、まずは離婚訴訟と同様、調停からスタートすることになります。離婚調停が不成立に終わった場合は、離婚訴訟に、慰謝料訴訟を併合することができます。
既に離婚が成立した後であれば、民事訴訟としていきなり訴訟することもできます。なお、調停前置主義については、後ほどもう少し詳しく説明します。(こちら※)
これに対し、養育費や財産分与は審判事件なので、話し合いの結果、調停が不成立に終わったときはそのまま審判に移行します。また、最初から話し合いなんてせずに、いきなり審判を申立てることもできます。
養育費や財産分与というのは、実務上の方針として「夫婦の年収がいくらなら養育費はいくら」「財産分与は夫婦の共有財産の1/2」と算定方法が決まっていますし、ほとんどの場合、法律上の複雑な争点があるわけでもありません。
そのため、あらためて訴訟なんて大袈裟なことはしません。調停が不成立に終わった場合は、調停をしたときと同じ裁判官が、そのまま審判で金額を決定します。その方が紛争の早期解決にも繋がるからです。
なお、離婚後に養育費や財産分与だけを単独で請求する場合は、いきなり審判を申立てることができますが、その場合でも裁判官が「先に調停をやった方がいい」と判断した場合は、調停に回されてしまいます。これを付調停といいます。
また、もし審判で決定に納得がいかない場合(例えば、養育費の決定金額に不満がある場合)は、即時抗告をすることができます。これも後述します。(こちら※)
ここまで「養育費や財産分与は審判事件なので、訴訟なんて大袈裟なことはせずに、審判で裁判官が決定する」と説明しました。しかし1つだけ例外があります。
それは離婚自体がまだ成立していない場合です。というのも、養育費や財産分与というのは「離婚すること」が前提でないと決められない話ですよね?
まだ離婚するかどうかわからないのに、養育費や財産分与の額だけ決めても意味がありません。つまり、離婚調停そのものが不成立になって訴訟に移行しているのに、養育費や財産分与だけそのまま残して審判で決定することはできないのです。
そのため、財産分与や養育費については「離婚訴訟とセット」という条件であれば、訴訟による判決で一緒に決定されることになります。
離婚訴訟や慰謝料請求訴訟には、調停前置主義がある
「離婚を認めるかどうか?」は重要な問題ですから、最終的には、審判ではなく人事訴訟 ※ によって決着を付けることになります。
しかし、いきなり裁判所に訴訟を提起することはできません。離婚訴訟を提起するためには、まず先に必ず離婚調停(夫婦関係調整調停)をやらなければならないと法律で決められています。
このことを調停前置主義といいます。
(人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件で)調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。(家事事件手続法244条)
訴訟というのは感情を抜きにして、事実と証拠だけをもとに、権利関係にハッキリと白黒を付ける手続きです。
例えば、「貸した100万円を返せ!」という貸金返還請求訴訟で、被告が「生活が苦しくてかわいそうだから」という理由で請求が80万円に減額されることはありえませんよね。
債務者の生活が苦しかろうが、リストラされようが病気だろうが関係ありません。原告にお金を借りた事実があるなら、「被告は100万円を支払え」という判決が出ます。
当たり前ですが、訴訟とはそういうドライな性質のものなので、本来は、離婚のような家庭内で生じる感情的な紛争には、馴染みにくいものなのです。
そのため、離婚などの人事訴訟については、訴訟を提起する前提条件として、まずは調停で話し合うことが要求されています。
離婚の慰謝料請求は、先ほども説明したように「不法行為による損害賠償請求」の問題ですから、もともと民事訴訟(カネ)の問題です。離婚のような身分関係についての訴訟(人事訴訟)でもありませんし、養育費や財産分与のような家事審判の問題でもありません。
ただし離婚そのものの調停や訴訟とあわせて請求をおこなう場合には、調停前置主義が適用となります。つまり、先に離婚調停をやらないと訴訟はできません。
これは、離婚訴訟そのものが調停を経ないとできないわけですから、当たり前のことです。
実際に世の中のケースでも、離婚調停のなかで慰謝料について同時に話し合うことは多いでしょう。この場合、もし調停が不成立に終わったら、離婚訴訟と慰謝料請求訴訟の両方について、まとめて家庭裁判所に訴状を提出することになります。
離婚慰謝料の訴状を家庭裁判所に提出していいの?
本来は、慰謝料の請求は民事訴訟の問題なので、地方裁判所や簡易裁判所が管轄になります。一方、離婚請求は人事訴訟の問題なので、家庭裁判所が管轄になります。
しかし離婚に伴う慰謝料請求訴訟に関してだけは、離婚訴訟(人事訴訟)と併合することが認められています。
人事訴訟に係る請求と、その請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求は…1つの訴えですることができる。(人事訴訟法17条)
さらに繰り返しになりますが、離婚訴訟では、附帯処分として財産分与、養育費、についても一緒に裁判できます。つまり離婚訴訟を1つ提起すれば、離婚慰謝料、養育費、財産分与の【3大お金の問題】は、全てまとめて解決することになります。
逆に、離婚訴訟とまとめて解決できないものもあります。例えば、婚姻費用の分担(離婚前の別居期間中の生活費を妻が夫に請求する場合など)なんかが典型です。こちらは附帯処分の対象ではありませんし、離婚訴訟と併合することもできません。
婚姻費用の分担請求は「審判事件」ですから、面倒ですが、離婚訴訟とは別で「調停と審判」の手続きをしなければなりません。
この場合は、調停をする必要はありません。調停前置の適用はありません。
もし調停をしたければ、慰謝料請求調停(裁判所ページ)という制度が用意されていますので、調停をすることもできます。しかし、元々は慰謝料請求権は民事訴訟の問題ですから、既に離婚が終わっているのであれば、いきなり訴訟をしても問題ありません。
この場合、請求額が140万円以下なら簡易裁判所、請求額が140万円を超えるようであれば地方裁判所に訴えを提起します。
一応、家事事件として家庭裁判所に申立てることもできますが、家庭裁判所に申し立てる場合は、調停前置主義が適用となってしまいます。そのため、調停から始めたいのであれば家庭裁判所に行けばいいですが、いきなり訴訟したいのであれば、簡易裁判所か地方裁判所に申し立ててください。
ちなみに当然ですが、夫の浮気相手に対して慰謝料を請求するような場合は、調停前置主義の適用はありません。いきなり訴訟することができます。
夫の浮気相手と妻とは、家族でも何でもありません(家事事件ではありません)し、人事訴訟でもありませんから、調停なんてしなくていいのは当たり前のことです。
離婚訴訟をするためには、まずは調停が必要です。そこで多くの方が考えるのが、「一応、カタチだけ調停を申立てて、すぐ自分で取下げて、訴訟に移行しちゃダメなのか?」ということです。
これはもちろんダメです。調停の「取下げ」と「不成立」とでは意味が違います。
調停で話し合いをした結果、不成立に終わった場合は、家庭裁判所で「調停不成立証明書」を発行して貰うことができます。この不成立証明書をもって、離婚訴訟を提起しなければならないことが多いです。
もちろん「調停で何回か話し合ったけども合意を得ることができず、調停委員の勧めで取り下げた」というような、調停がおこなわれた実質があれば、取下げた後に、離婚訴訟を提起できる場合もあります。「取り下げだと絶対にダメ」ということではありません。
ただし、最初に述べたような「カタチだけ調停を申し立てて、すぐ取り下げた」というような場合は、そのまま訴訟に進むことはできません。
もちろん、離婚調停の申立て自体は夫婦の片方だけからでもできますし、相手が調停への出席を拒否しているような場合は、調停は勝手に不成立になります。なので、相手が調停に応じてくれない限り訴訟にも進めない、ということはありません。
「訴訟」「調停」「審判」の仕組みとそれぞれの流れ
訴訟というのは、いわば勝負の世界です。権利や義務が「存在するのか・存在しないのか」をハッキリ白黒つけることが目的です。
裁判官は、両者が主張する事実が本当なのかどうか、両者が提出する証拠だけで判断します。例えば、離婚訴訟であれば、離婚原因となる事実(夫の不倫や暴力、モラハラなど)があったことを、妻の側が客観的な証拠を提出して証明しなければなりません。
訴訟というのは、法律上の権利が存在することを裁判所に認めて貰うための手続きです。
しかしその権利の根拠となる事実が存在することは、権利を主張する側の人が自分で証明するのが原則です。裁判所が調べてくれるわけではありません。
「金を返せ!」という訴訟を起こすのであれば、お金を貸したことを自分で証明しなければなりません。同じように「離婚させろ!」という訴訟を起こすのであれば、離婚原因があったことを自分で証明しなければなりません。
離婚原因を証明できれば離婚が認められますが、証明できなければ離婚は認められません。
例えば「平成27年3月12日21時頃に、夫は不倫相手××と渋谷の××ホテルに入り不貞行為に及んだ」なんて事実を細かく主張して、さらに現場に入る写真を証拠として提出したりして、離婚原因となる事実が存在したことを証明するわけですね。
主な離婚原因の証拠
主な離婚原因 | 主な証拠 |
---|---|
不貞行為 | ホテルに男女2人で外泊した証拠、現場の写真、メールのやり取り、カード明細など |
暴力・モラハラ | 暴言の録音、アザなどの写真、医師の診断書、日々の日記記録など |
不貞行為 |
---|
ホテルに男女2人で外泊した証拠、現場の写真、メールのやり取り、カード明細など |
暴力・モラハラ |
暴言の録音、アザなどの写真、医師の診断書、日々の日記記録など |
もちろん、相手が離婚原因となる事実(例えば、不貞行為など)を認めているときは、自白が成立しますので、それを妻が証明する責任はなくなります。ただ、離婚そのものを訴訟で争っているわけですから、相手もそう簡単には離婚原因を認めないでしょう。
【コラム】 明らかな離婚原因がない場合は?(※クリックタップで開閉)
裁判官はどちらの味方でもありませんので、ただ「事実が存在するかどうか?」を証拠をもとに判断するだけです。事実が存在するのであれば自動的に権利(離婚請求)が認められますし、事実を証明することができなければ原告の請求は棄却されます。
裁判の結果は「事実」と「証拠」をもとに、淡々と論理的に決まります。
まず後述する調停の場合は、調停期日呼出状を無視して、調停期日に出頭しなかったとしても、それだけで何かいきなり不利になるわけではありません。調停が不成立に終わるだけです。
調停が不成立になれば、その後、審判や訴訟に移行することになりますが、そのときにキチンと出席したり主張や証拠を提出すれば、審判や判決の場面で不利に扱われることはありません。
もちろん調停の後に審判に移行する場合は、調停に欠席していると裁判官の心証が悪くなる可能性はあります。しかし離婚のように「訴訟」に移行する場合は、新しい手続きとしてお互いが0から主張や証拠を提出することになりますから、調停の時の調停委員や裁判官の心証というのもあまり関係ありません。
では訴訟に欠席した場合はどうでしょうか?
訴訟に欠席すると著しく不利になるが、必ず離婚が成立するわけではない
こちらも結論からいうと、相手が口頭弁論期日に出頭して来なかったとしても、原告(妻)は自分で離婚原因をキチンと証明できなければ、離婚は成立しません。
つまり、離婚訴訟(人事訴訟)においては、自白の擬制は成立しないということです。
一般のお金の貸し借りなどの民事訴訟では、被告が、訴訟での口頭弁論期日に出頭しない場合、「自白の擬制」といって、相手方の主張を「事実と認めた」ものとみなされてしまいます。そのため、原告が自分の権利を証拠によって立証しなくても、相手が裁判に出頭して来なければ自動的に「勝訴」になります。しかし、離婚訴訟にはこの仕組みはありません。
離婚訴訟では、自白の擬制がないため、相手が期日に出頭して来ないからといって、それだけで当然に裁判に勝てる(離婚が認められる)わけではありません。
とはいえ、相手が裁判に出頭して来ないのであれば、こちらの主張や証拠の認定について相当有利になるのは間違いありません。また財産分与や養育費の算定についても、妻(原告)の主張が一方的に考慮されることになります。
訴訟の特徴
- 訴訟では、原則として、口頭弁論は公開の法廷の場でおこなわれる
- 訴訟は、法律上の権利の条件となる事実を「証明」できれば勝つ
- 裁判官は客観中立。当事者の主張する事実と証拠でしか判断しない
- 裁判官は最終的に「判決」として、請求を認めるか棄却するか決める
- 判決に納得いかない場合は、上級裁判所に「控訴」できる
- 途中で和解して終わらせることもできる。訴訟上の和解。
家事調停は、話し合いによって平和的に解決する方法
これに対して、調停というのは、話し合いの世界です。
話し合いによってお互いの妥協点を探して、平和的な解決を目指すことが目的です。そのため、夫婦2人が話し合った末に「離婚しましょう」という結論になったのであれば、法律上の離婚原因なんてなくても離婚できます。
調停では2人の主張する事実が「本当かどうか?」を証拠を使って証明することは、それほど重要ではありません。これが裁判との大きな違いです。
例えば、「平成27年3月12日21時頃に、夫は不倫相手と渋谷のホテルに入って・・・」なんて事実を、調停で1つ1つ証拠として提出し追及していたら、平和的な解決どころか、どんどん対立関係が深まってギスギスしていくのは目に見えています。
家庭や離婚の問題は、感情の要素が非常に大きいので、話し合いを抜きにしてただ論理的に「法律上は離婚が成立する」ということだけを証明しても、後々ずっとしこりが残ってしまう可能性があります。
さらに無理やり、慰謝料や今後の養育費を決める判決を取ったとしても、夫に「無理やり払わされる」という気持ちが残ってしまうと、自主的に支払ってくれなくなるかもしれません。そうすると、また「強制執行だなんだ」という面倒くさい話になります。いくら判決があっても、強制執行するのはそう簡単ではありません。
お互いが納得した上で、話し合いによって離婚できるのであれば、それがベストです。
訴訟上の和解と、調停の違い
もちろん訴訟にも同様に「和解」という仕組みはあります。
実際、離婚訴訟のほとんどは、裁判上の和解 ※ によって決着します。判決で100%白黒ハッキリつけるよりは、少しでもお互いが譲歩して和解した方が、後々の対立感情が残りにくくなりますし、養育費や慰謝料なども任意で支払って貰いやすくなります。
しかし、それはあくまでも訴訟という勝負の土俵のなかでの和解です。
つまり、お互い自分の持っている事実や証拠を提出して「どちらが有利か?不利か?」の決着まで見据えた上で、勝ち目のある方が負けそうな方に少し譲歩してあげるだけの合意が多いです。
最初から話し合いで結論を導き出そうという「家事調停」とは、コンセプトが違います。
調停の種類と流れ
調停には、離婚調停(夫婦関係調整調停)の他に、婚姻費用の分担請求調停、慰謝料請求調停、財産分与請求調停、年金分割の割合を定める調停、養育費請求調停、面会交流調停、子の引渡し調停などがあります。
ただ、離婚調停をする場合は、その調停のなかで同時に「親権者」「面会交流」「養育費」「財産分与」「慰謝料」などについてまとめて話し合うことができますので、それぞれバラバラに申立てる必要はありません。
調停では、裁判官と調停委員からなる調停委員会が話し合いを仲裁します。
といっても、実質的な話し合いはほとんど調停委員とおこないます。家事調停委員というのは、専門的な知識や見識のある仲裁人のことで、要は、一般の民間人の方です。なかには弁護士の方もいますが、ほとんどは弁護士ではありません。
離婚調停の期日が決まると、夫婦はそれぞれ裁判所に出頭します。
調停期日は同じ日ですが、調停委員との話し合いはバラバラに行います。片方が調停室で調停委員と話している間は、もう片方は待合室で待機します。なので、基本的には、夫婦が裁判所で顔を合わせることはありません。
話し合いで合意が成立すれば、裁判所書記官が調停調書を作成します。調停成立の際には、裁判官が当事者2人の前で合意内容を読み上げますので、そのときには原則として顔を合わせる(同席する)ことになります。
「話し合いが成立する見込みがない」と調停委員が判断すれば、調停は不成立になります。相手が調停に出頭しない場合なども、不成立になります。
家事調停の特徴
- 非公開の場でおこなわれる
- 調停委員の人が仲裁に入って話し合いをしてくれる
- 法律上の条件を満たすことや、事実を証明することはあまり重要ではない
- 合意が成立すれば調停調書が作成されて、確定判決と同一の効力になる
- 合意ができなければ不成立で終わる。無理に合意しなくてもいい
- 調停が不成立になった場合、審判事件の場合は、審判に移行する
審判は、訴訟よりはやや簡易的な裁判所による決定
家事審判の場合は、最終的に裁判官が何らかの決定を下します。
例えば、養育費や財産分与について2人で話し合ったけれど、決めることができなかった場合は、そのまま調停から審判に移行し、同じ裁判官が養育費と財産分与の額を決定します。
話し合いの解決に任せるのではなく、裁判官が強制的に最終判断をする、という意味では、訴訟にかなり似ています。以下、審判と訴訟(調停)との主な違いをまとめてみました。
審判と訴訟(調停)の主な違い
審判 | 訴訟 | 調停 | |
---|---|---|---|
公開の有無 | 審判期日は、非公開で審判廷でおこなわれる | 口頭弁論期日は、公開の法廷で行われる | 調停期日は、非公開の調停室でおこなわれる |
相手との 顔合わせ |
審判期日は、原則として対審なので相手と顔を合わせる | 口頭弁論期日では、対審なので相手と顔を合わせる | 調停期日では、交互に調停室に呼ばれ、原則、顔は合わせない |
調停との関係 | 調停の続き。調停で使用した資料や記録は引き継がれる。裁判官も調停の時と同じことが多い。 | 調停とは全く別。裁判官も代わり、自身の主張したい事実や証拠はあらためて訴状とともに提出する。 | - |
結論 | 審判が終了すると、後日、審判書が郵送される。言い渡し期日はない。 | 判決期日が指定されて、公開の法廷で判決が言い渡される。後日、判決正本が郵送される。 | 調停が成立すると、当事者の前で裁判官が合意内容を読み上げる。後日、調停調書が郵送される。 |
不服申立て の方法 |
審判から2週間以内に即時抗告する | 判決から2週間以内に控訴する | 不服なら合意しなければいいだけ。調停不成立。 |
事実の調査 証拠調べ |
裁判所が職権で事実調査や証拠調べができる(職権探知主義・職権証拠調べ)。
例えば、家庭裁判所調査官に子供との面会や、保育園・父母の自宅の訪問などを命じ、調査報告書を作成させ、それを元に審判をすることができる。 |
当事者が自ら主張する事実しか認定しないし、当事者が自ら提出する証拠しか調べない(弁論主義)。 | - |
公開の有無 | |
---|---|
審判 | 審判期日は、非公開の審判廷でおこなわれる |
訴訟 | 口頭弁論期日は、公開の法廷で行われる |
調停 | 調停期日は、非公開の調停室でおこなわれる |
相手との顔合わせ | |
審判 | 審判期日は、原則として対審なので相手と顔を合わせる |
訴訟 | 口頭弁論期日では、対審なので相手と顔を合わせる |
調停 | 調停期日では、交互に調停室に呼ばれ、原則、顔は合わせない |
調停との関係 | |
審判 | 調停の続き。調停で使用した資料や記録は引き継がれる。裁判官も調停の時と同じことが多い。 |
訴訟 | 調停とは全く別。裁判官も代わり、自身の主張したい事実や証拠はあらためて訴状とともに提出する。 |
結論 | |
審判 | 審判が終了すると、後日、審判書が郵送される。言い渡し期日はない。 |
訴訟 | 判決期日が指定されて、公開の法廷で判決が言い渡される。後日、判決正本が郵送される。 |
調停 | 調停が成立すると、当事者の前で裁判官が合意内容を読み上げる。後日、調停調書が郵送される。 |
不服申立ての方法 | |
審判 | 審判から2週間以内に即時抗告する |
訴訟 | 判決から2週間以内に控訴する |
調停 | 不服なら合意しなければいいだけ。調停不成立。 |
事実の調査・証拠調べ | |
審判 | 裁判所が職権で事実調査や証拠調べができる(職権探知主義・職権証拠調べ)。
例えば、家庭裁判所調査官に子供との面会や、保育園・父母の自宅の訪問などを命じ、調査報告書を作成させ、それを元に審判をすることができる。 |
訴訟 | 当事者が自ら主張する事実しか認定しないし、当事者が自ら提出する証拠しか調べない(弁論主義)。 |
もし審判の決定に対して納得がいかない場合には、2週間以内に「即時抗告」をすることができます(家事事件手続法86条)。
即時抗告の内容に「もっともな理由がある」と判断されれば、さらに上の裁判所(抗告裁判所)でもう一度、審理して貰うチャンスが与えられます。ただし即時抗告は、何の審判に対してでも必ずできるわけではありません。法律で「できる」と決まっているものについてのみ可能です。
例えば、養育費や財産分与の決定、婚姻費用の分担についての審判には、即時抗告は可能です(家事事件手続法156条)。
実際に、「養育費の算定額に納得がいかない」「財産分与の内容に納得できない」といった理由での即時抗告は多いです。一方、例えば、子の氏の変更の審判に対して即時抗告をすることはできません。
新規の主張証拠がなければ、棄却の可能性が高い
当然ですが、即時抗告に全く正当な理由がなければ、門前払いで却下されます。 一応の理由(言い分)がある場合は、相手にも抗告状が送達されます。相手にも陳述の機会を与えるためです。
審判に対する即時抗告があった場合には、抗告裁判所は、即時抗告が不適法であるとき又は即時抗告に理由がないことが明らかなときを除き、原審における当事者(抗告人を除く。)に対し、抗告状の写しを送付しなければならない。(家事事件手続法88条)
即時抗告の抗告審は、ほとんど書面審理だけで行われることが多いため、訴訟のように口頭弁論期日などはありません。審尋期日が開かれることも少ないので、基本的には、両者2人が揃って法廷に出頭することはありません。
そのため、即時抗告をしてから1~6カ月程度は、ただ待っているだけの状態になります。早ければ1カ月ほどで決定が出ます。過去の調停や審判で主張していなかったような新しい事実や証拠がない場合は、即時抗告は棄却されることが多いようです。
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