今回の登場人物矢野 圭司さん(仮名)

1982年生まれの35歳。 生命保険の営業職に従事しながら、28歳のときに副業でFXを始める。約2年半で600万円の借金を抱え、2013年に個人再生。住宅ローンを残したまま借金を減らすことに成功。
現在は再生計画の返済も完了済み。

個人再生でFX借金を1/5に減らすことに成功

裁判所に個人再生を申立てて、無事、認可決定を貰ってFXの借金を1/5に減らすことに成功した矢野さん。個人再生を申立ててから、借金や住宅ローンの返済が再開する時期やスケジュール、手続きの流れなどを聞きました。

個人再生のスケジュールについて

それでは、実際に個人再生を申立てた後の流れを教えて貰えますか?
はい。
最初に弁護士に相談に行ったのがたしか3月頃でした。
なるほど。
その後、結果的には以下のようなスケジュールで手続きが進みました。
個人再生のスケジュール

5月30日 弁護士に相談 + 委任
6月1日 受任通知の送付

8月10日 裁判所に個人再生を申立て
8月26日 個人再生の開始決定

(9月23日 債権届出期間終期)

10月16日 再生計画案の提出期限
10月19日 書面決議に付す旨の決定

11月16日 書面決議の回答期限
11月21日 再生計画の認可決定

12月18日 認可決定の確定
1月28日 弁済開始

へえええ、

弁護士さんに相談してから、実際に、個人再生の認可が下りて返済がスタートするまでに、半年以上もかかるんですね。

私の場合はそうでしたね。

11月には認可決定が下りたのですが、その決定が確定するまでに1カ月かかりました。

さらに、実際の弁済がスタートするのは、確定した月の翌月からなので。
なるほど。

でも、弁護士さんが受任通知を債権者に送った直後から、消費者金融やカード会社への返済はすべてストップしますよね?

ということは、かなりの期間、家計に余裕ができるんじゃないですか?

いえ、そういうわけでもありません。

たしかに個人再生の認可が確定するまでの間、返済はありませんが…。

代わりに、同額を毎月積み立てて準備しておかないといけないんです。

どういうことですか?

履行可能性をチェックするための積立

個人再生では、ちゃんと再生計画通りに返済できます、ということを裁判所に納得して貰わないと認可決定を出して貰えません。
はい、
そうですよね。
特に、
住宅ローン特則付きの個人再生の場合は、「本当に返済を続けられるか?」という履行可能性について、裁判官に厳しくチェックされます。
※ 住宅ローン特則付きの個人再生では、民事再生法202条により「積極的に遂行可能であると認められるとき」に限り認可決定が下りるとされており、(住宅ローン特則なしの再生計画に比べて)法律上も、やや認可要件が厳しくなっています。ただし実務上はさほどの違いはない、という意見もあります。
なるほど。
そのため、「本当に返済できます」ということを裁判所に説明するために、以下のような資料を提出します。

・給与明細資料
・源泉徴収票
・過去数カ月分の家計収支表

ふむふむ。

ちゃんと収入があって、かつ家計のやり繰りもできることを証明するわけですね。

はい、
弁護士さんに相談した翌日から家計簿をしっかり付けるように指導されました。
なるほど。
それだけではないんです。
弁護士さんからは、

「本当に支払ができることを裁判所に説明するために、6月から個人再生の返済と同額を毎月積み立てて、指定する口座に振り込んで下さい」

と指示されました。

ほう…?
弁護士さんの口座に振り込むんですか?
はい、
そうです。

私の場合は、もし個人再生が認可されれば、FXの借金600万円が120万円まで減額されることになります。

これを3年間で返済するので、月々の返済額は3万4000円になります。

なるほど。
この金額がちゃんと今後も支払えることを証明するために、6月から毎月3万4000円ずつ弁護士さんの口座に積み立てておくんだそうです。
そのときの通帳の記録を裁判所に提出して、「ちゃんと遂行可能だ」と納得して貰うわけですね。
そうです。
※補足1
大阪地裁などの一部の裁判所では、弁護士に個人再生を依頼した直後から、(再生計画で予定する毎月の弁済額と同額を)弁護士の専用口座等に積み立てさせて、再生計画案の提出時に一緒に「積立状況」を報告させる運用が行われています。
裁判所は、その積立状況の報告を参考に、再生計画の履行可能性を判断します。
※補足2
なお東京地裁では、分割予納金の納付というかたちで、6カ月間の履行テスト(本当に弁済できるかどうか、予定する返済額と同額を6カ月間、裁判所の用意する口座に振り込んでテストする制度)が実施されるため、自分で積み立てる必要はありません。この辺りの運用は裁判所によって違います。
ということは、弁護士に個人再生を依頼して全ての債権者への返済がストップした後も…、

すぐに予定する返済額の積み立てがスタートする、というわけですか。

そうですね。
この毎月の積立金の支払いは、いわば、個人再生認可後の返済の「練習」みたいです。

だから重要なんだ、と説明を受けました。

でも月3万4000円なら割と余裕はあるんじゃないですか?
そうですね。
弁護士に相談する前は、消費者金融・銀行カードローン・クレジットカード等で、毎月10万円の請求がありましたから….。

比べると、全然楽になりましたね。

手続き期間中の住宅ローンの支払い

住宅ローンの方はどうなんですか?

個人再生の認可が決定するまでは、やはり支払はストップするんですかね?

いいえ、私の場合は、個人再生の開始が決定した8月頃から、すぐに住宅ローンの支払も再開しました。
あれ?
そうなんですね?
はい。
なので実質的に、8月からはもう個人再生後と同じ額の支払いがスタートしたことになりますね。
一般的には、個人再生の認可が確定するまでの間は、個別の債権者への返済はしてはいけないと思うんですが…。
(民事再生法85条)
はい。
ただし住宅ローンの場合は例外的に、裁判所に「弁済許可」を申請することで、返済を続けることができるんです。
あ、
そうなんですか。
どのみち、住宅ローン特則を利用する以上は、住宅ローンは利息も含めて1円も減額されません。

なので、個人再生の手続き中に住宅ローンを返済できないとなると、

その間に遅延損害金が膨らんだり、期限の利益を喪失してしまう可能性があるので。

なるほど。
それで住宅ローンに関しては、例外的に、手続き中も返済していいことになってるんですね。
※ 民事再生法197条3項では「弁済許可制度」が設けられており、住宅ローンに関してのみ、裁判所の許可を得れば、個人再生の開始後も住宅ローンの支払いを続けることが認められます。ただし住宅ローン特則を申立てていること、期限の利益を喪失する前であることなどいくつか条件があります。
では、個人再生の開始後(8月以降)は、もう既に

1)返済予定額の積立 月3万4000円
2)住宅ローンの返済 月8万円

で、個人再生の認可後と同額の支払いを再開してたことになるんですね。

そうですね。

それでも個人再生の開始前に比べれば、遥かに月々の返済は楽になりましたね。

積み立てたお金は戻ってくる?

ちなみに、積み立てたお金は最終的に戻ってくるんですか?
はい、もちろん戻ってきます。

再生計画の認可後の返済に充てる、と言われました。

あ、そうですよね。
良かったです(笑)
個人再生後の返済は、実際は毎月ではなく、3カ月おきの支払いになります。
(3年間で12回払い)

なので、第1回目の返済分で足りなくなることがないように、手続き期間中から積み立てておいた方がいいみたいです。

※補足
個人再生の認可後は、減額後の借金を3年間で返済することになりますが、その返済回数は12回(3カ月ごと)と決められています。そのため、個人再生の認可決定後の第1回目の支払いまでに、少なくとも3カ月分の返済金を準備しておかなければなりません。
あ、なるほど。
個人再生後の返済は3カ月おきなんですね。

それはお金の管理をちゃんとしないとダメですね。

はい、
ただ私の場合は、弁護士事務所を経由して返済させて貰ったので…。
個人再生の認可後も、私は毎月3万4000円を弁護士さんの口座に振り込んでただけです。

あとは弁護士さんがやってくれてました。

おお、
そうなんですね。
はい。
自分で支払うこともできるみたいですが。

3カ月置きなので、うっかり期日を間違えたり、お金を使ってしまうと怖いので…。

そうですよね。

個人再生後の振込まで面倒みてくれる弁護士事務所もあるんですね。

※補足
個人再生の認可後に、返済代行までやってくれるかどうかは法律事務所によって異なります。
またやってくれる場合でも、通常は手数料(債権者1社あたり1000円など)が掛かるので、キチンと管理できる方であれば自分でやった方がお得です。

個人再生の費用はいくら?

個人再生の弁護士費用はどのくらいでしたか?
えーっと、
住宅ローン特則付きだったので合計50万円ほどでした。

ただ、前述のように弁護士費用は、妻のお義父さんが出してくださいました。

ああ、そうですね。
それは助かりますね。

裁判所の費用はどうでしたか?

裁判所への予納金は合計2万円程度だったと思います。

申立費用と、官報公告のための費用だけです。

あれ、
意外と安いんですね。
それだけですか?
はい。私の場合は個人再生委員の選任がなかったので安く済みました。
個人再生委員とは

個人再生委員とは、個人再生手続きの補助をするために、裁判所から選任される弁護士です。
例えば、再生計画案について助言をしたり、認可の可否について裁判所に意見書を出したり、裁判所の代わりに債務者の財産を調査したり、債務者と面談したりします。この個人再生委員が選任されると、その報酬として15~20万円の追加費用が必要になります。

なるほど。
東京地裁では、全件で個人再生委員が選任されることで有名です。

しかしそれ以外の裁判所では、個人再生委員は選任されないことが多いみたいですね。

そうですね。
私の地方では、弁護士が代理人で申立てていれば、原則として個人再生員は選任されない、と聞きました。
なるほど。
地方だと、個人再生委員のなり手となる弁護士の数が不足している、という事情もあるみたいです。

なので東京みたいに、全員に個人再生委員が付く、ということはありません。

裁判所には出頭しないとダメ?

個人再生を申立ててから、認可決定が下りるまでの間で、一番大変なことは何でしたか?
やはり毎月しっかり家計簿を付けて、ちゃんと返済額を弁護士さんの口座に振り込むことですね。

ミスがないように注意を払ったので大変でした。

なるほど。

裁判所に呼び出されたり、といったことはなかったんですか?

例えば、自己破産だと最低1回は裁判所に出頭して裁判官と面談しないとダメみたいですが….
私の場合は何もなかったですね。
裁判所には自分では1度も行ってません。

人によっては、個人再生委員との面談があるみたいですが…。

なるほど。

そういえば、東京地裁では個人再生の申立て後、最初に個人再生委員との面談がありますよね。

私の場合は、個人再生委員の選任自体がなかったので。
そういうのもありませんでした。

裁判所の審理も書面だけで行われたので。
提出も全部、弁護士さんがやってくれましたし。

ふむふむ。
それで矢野さんとしては、家計管理と、返済額の積立に専念できたわけですね。
そうですね…。

あ、あと申立ての準備のために書類を揃えたりするのは結構、大変でした。

個人再生で準備した書類

  • 戸籍謄本
  • 住民票
  • 不動産登記簿
  • 固定資産評価証明書
  • 源泉徴収票
  • 給与明細
  • 預金通帳
  • 保険証券
  • 保険の解約返戻金額証明
  • 退職金見込額証明書
  • 家計収支表
平日で仕事が忙しいときは妻に協力して貰って何とか揃えることができました。

やはり妻にキチンと借金のことを打ち明けていて良かったと思います。

なるほど。
仕事をしながら、妻に内緒で自分1人で必要書類を全て揃えるのは結構、大変かもしれないですね。

個人再生をしてみた感想

現在、個人再生の認可が下りてからどのくらいになりますか?
もうすぐ4年になりますね。
すでに3年間の一般弁済期間は終えて、FXの借金120万円は返し終えています。

あとは住宅ローンだけです。

おお!
素晴らしいですね。
おめでとうございます。
月3万4000円の返済分が無くなったので、その分は住宅ローンの繰り上げ返済に回すようにしています。
なるほど。
もうFXには手を出していないですか?
そうですね。
今は完全に妻が口座も管理していて、お小遣い制になってるので(笑)
いずれにしても、もうFXやデイトレはやりません。

今後はインデックス投資など、無難な長期投資をコツコツやっていこうと思います。

そうですか。
良かったです。

これから債務整理を検討している方、借金で悩んでいる方にアドバイスはありますか?

そうですね。
個人再生という手続きは、あまり知名度はないですが…、

私みたいに、マイホームを何とか残したいと悩んでいる人にはかなりお勧めの方法だと思います。

なるほど。
個人再生なら、1000万円超えの借金でも1/5まで圧縮できますので。

サラリーマンで安定収入がある方なら、かなり借金が多い方でも返済の道が見えると思います。

そうですね。
借金が多過ぎて、しかも自己破産もできないと絶望している方には、真っ先に教えてあげたいですよね。
逆に、こういう人には個人再生は向いてない、というのはあります?
うーん、
そうですね。

やはり安定収入がない方は、無理に個人再生するよりも自己破産を選択した方がいいケースが多いと思います。

結局、途中で返済できなくなったら意味ないですからね。
あとは、借金額が100~200万円程度しかない人にもあまりお勧めできません。
ほう。
なぜですか?
借金100~200万円だと、個人再生をしても、返済額は100万円までしか減りませんし…、

弁護士費用などを考えるとあまり借金が減りません。

なるほど。

普通の生活苦などで借金している方だと、金額的は100~200万円の人が多いのかもしれませんね。

はい。
借金が100万円以下でも、収入が少ない人や働けない人の場合、自己破産が認められることは多いみたいなので…。

そういう方は、自己破産の方がいいと思います。

※補足
自己破産の開始要件は「支払不能」なので、収入がかなり低い(または無収入)場合は、100万円以下の借金でも自己破産は可能です。一方、個人再生は法律上の最低弁済額が100万円なので、借金が100万円以下の方は利用することができません。
なるほど、よくわかりました。
本日は貴重なお話、ありがとうございました。