今回の登場人物矢野 圭司さん(仮名)

1982年生まれの35歳。 生命保険の営業職に従事しながら、28歳のときに副業でFXを始める。約2年半で600万円の借金を抱え、2013年に個人再生。住宅ローンを残したまま借金を減らすことに成功。
現在は再生計画の返済も完了済み。

個人再生を決意!個人再生なら自宅を残せる

FXの借金を債務整理するにあたって、「ローン付の自宅を残せるか」「保険の仕事を続けられるか」など懸念点がたくさんあった矢野さん。弁護士と相談した末、個人再生という法的手続きが最適とわかります。そのメリットを詳しく聞いてみました。

弁護士に「個人再生」を薦められる

結論からいうと、弁護士さんには「個人再生」という手続きを薦められました。
なるほど。
個人再生ですか。

個人再生というのは、借金を現在の1/3~1/5程度にまで減額することを裁判所に認めて貰う法的な救済手続きですね。

個人再生とは

個人再生とは、「民事再生法」という法律で定められた救済制度です。裁判所に申し立てることで、現在の借金額を法律で定められた以下の「最低弁済額」まで減額することができます。

借金の額 最低弁済額
~100万円未満 全額
~500万円未満 100万円
~1500万円未満 現在の1/5
~3000万円未満 300万円

参考記事「個人再生の最低弁済額

個人再生をすれば、現在のFXの借金600万円をその1/5の120万円にまで減額できる、という話でした。
1/5ですか…?!
それは凄いですね。
たしかに120万円なら頑張れば、返済できそうですね。
はい。
個人再生では、この減額後の債務120万円を3年間かけて返済する「再生計画」を作成して裁判所に提出します。

その再生計画が、裁判官に認可されれば、法的に借金が減免されることになります。

なるほど。
任意整理のように、個々の債権者と交渉して和解する必要はないんですね。

裁判所が「減額OK」といえば、債権者の同意の有無に関係なく、法的に借金を減額できるわけですか。

はい、そうですね。
ただし一応、債権者決議というものもあって、債権者の過半数が反対すると、再生計画が否決されます。

債権者の決議で否決される?!

あ!
債権者の決議もあるんですね。

過半数の反対というのは、金額ですか?それとも人数(社数)ですか?

両方です。
決議の要件は、「不同意の債権者が半数に満たず、かつ債権額が総額の1/2を超えないこと」とされているので…、
どちらかが半分を超えればアウトです。
なるほど。
ということは、債権者が結束して反対されたら意味ないですね?
はい、
私もそう思いました。

ただ、私が借りているような消費者金融や銀行カードローン、クレジットカード会社は、基本的には、債権者決議で反対してくることはないようです。

そうなんですか。
はい。
1社1社でみれば、債権額がそれほど大きいわけでもないですし。

強硬に反対したところで、他に取立て手段があるわけでもないので…。

なるほど。
逆にどういう場合に反対される可能性があるんですかね?
弁護士さんが言うには、1社だけで債権額の過半数を占めるような業者がいる場合には、その業者が単独の反対票で否決できてしまうので、反対される可能性が高くなるようです。

例えば、借金800万円のうち1社だけが700万円を占めてる、といったケースですね。

なるほど。
ただ、そのような場合でも個人再生を諦める必要はないそうです。

給与所得者等再生を選ぶ手もある

それはどういう意味ですか?
個人再生には、「小規模個人再生」「給与所得者等再生」2種類があるんです。

給与所得者等再生なら、そもそも債権者決議がないので債権者に反対される心配がありません。

え、そうなんですか?

じゃあ全部、給与所得者等再生で申立てればいいんじゃないですか?

ただそういう単純な話でもないみたいで…。

一般的には、給与所得者等再生で申立てると、再生計画での返済額が増えてしまうそうなんです。

ああ、
そうなんですね…。
先ほど、個人再生は債務額を1/5程度の「最低弁済額」まで減額できる手続きだ、といいましたが…。

これは「小規模個人再生」の話です。

しかし給与所得者等再生の場合は、ここにさらにもう1つ、可処分所得2年分以上であること」という条件が付きます。
なるほど。
可処分所得2年分ですか。
はい。
可処分所得というのは、要するに、給与所得から最低限の生活費を控除した金額のことですが…。

この2年分が個人再生の返済額になってしまうんです。

これは実際に弁護士に計算して貰うとわかりますが、多くの人の場合、こちらの方が返済額が多くなってしまいます。

私の場合もそうでした。

そうですか。
特に矢野さんの場合は、結構、収入が高いですから可処分所得2年分の方が重くなりそうですね。
はい。
私の場合は170万円ほどになるそうです。

それに給与所得者等再生は、サラリーマンで安定収入がないと利用できない、という条件もあります。

なるほど。
私の仕事は、歩合給で収入の変動も大きいので、その意味でも給与所得者等再生は適していませんでした。
※ 給与所得者等再生の場合は、過去2年の給与の変動幅が20%以内でなければならない(それだけ安定してないとダメ)という縛りがあります。小規模個人再生の場合は、そこまでの厳しい制約はありません。
なるほど。

まとめると一般論としては給与所得者等再生の方が返済額も多くなってしまうし、条件も色々と厳しい、ということですね。

その代わり、債権者決議がないと。

はい。
なので、債権者に反対される心配がないなら原則として「小規模個人再生」を申立てた方がいい、ということですね。

逆に、1社から多額の借入をしてて、債権者決議で否決される心配がある場合は、「給与所得者等再生」の方がいいと。

小規模個人再生 給与所得者等再生
債権者決議 あり
過半数(金額または数)の債権者が反対した場合、再生計画が否決される。(ただし一般のサラ金やクレジット業者が反対することは稀)
なし
債権者決議がないので、債権者の不同意で否決される心配がない。
最低弁済額 法律で定められた最低弁済額を返済すればOK。一般的には返済額が安くなる。 法律で定められた最低弁済額か、または給与所得等から計算する「可処分所得2年分」のどちらか高い方が最低弁済額になる。一般的には返済額が高額になる。
小規模個人再生
債権者決議 あり
過半数(金額または数)の債権者が反対した場合、再生計画が否決される。(ただし一般のサラ金やクレジット業者が反対することは稀)
最低弁済額 なし
債権者決議がないので、債権者の不同意で否決される心配がない。
給与所得者等再生
債権者決議 法律で定められた最低弁済額を返済すればOK。一般的には返済額が安くなる。
最低弁済額 法律で定められた最低弁済額か、または給与所得等から計算する「可処分所得2年分」のどちらか高い方が最低弁済額になる。一般的には返済額が高額になる。

個人再生を勧められた理由

話は戻りますが…、

自己破産ではなく、個人再生を薦められた理由は何ですか?

はい、
理由はいくつかありますが、やはり一番の理由は「個人再生なら住宅を残せる」という点でした。
住宅ローンが残っていても、個人再生なら自宅を所有し続けることができるんですね?
はい。
住宅ローン債権者が納得しないと思ったのですが…、

民事再生法では、「住宅ローン特則」という特別な制度が設けられていて、裁判所が住宅ローンの継続を認めてくれる、という話でした。

なるほど。
裁判所が、ですか。
その代わり、もちろん住宅ローンは減額されません。

今まで通り、全額を支払い続ける必要があります。

利息や遅延損害金も一切免除にはならない、というお話でした。

ふむふむ。
住宅の保有を続けさせて貰えるわけですから、それは当然ですよね。
私の場合、FXの借金600万円とは別に、住宅ローンがまだ3000万円ありました。

この3000万円は今まで通り、月7万円の返済を続けて、それとは別にFXの借金600万円を1/5の100万円まで減額して貰い、それを3年間で返済する、というお話でした。

なるほど。
でも住宅ローンは3000万円と高額ですから、先ほど言ってた「債権者決議」で銀行に否決されないんですか?
いえ、それは大丈夫です。

住宅ローン特則を利用する場合は、住宅ローン債権者(銀行等)やその保証会社には、議決権がありません。

なので、住宅ローン債権者に反対して否決される、という心配はないんです。
(民事再生法201条)

へええ、なるほど。
その辺りは上手く法律が作られてるんですね。
その代わり、裁判所は再生計画の認可にあたって、住宅ローン債権者の意見を聞かなければならないことになってます。
ふむふむ。

決議で反対するほどの強力な権利はないけど、一応、裁判所に意見を述べることはできる、ということですか?

そうみたいです。

なので、実務的には、弁護士さんが事前に銀行に出向いたり、電話で相談したりして、返済方法をちゃんと協議した上で、裁判所に再生計画を提出するそうです。

要するに、ちゃんと事前に銀行と協議して根回しをしたうえで、裁判所に個人再生を申立てるということですね。
なるほど。
銀行側もちゃんと協議には応じてくれるわけですね。
※補足
住宅ローン特則の利用にあたっては、一般的な「約定型」(当初の住宅ローン契約通りの返済を、今後も続けさせて貰う方法のこと)の場合、法律上は住宅ローン債権者の同意を必要としません。
しかし現実的には、住宅ローンの契約内容はかなり複雑なため、債権者の協力がなければ正確な再生計画の作成が困難です。そのため、実際には債権者との事前協議・協力が必要になります。

住宅ローンの滞納分の扱いは?

矢野さんは結局のところ、個人再生を申立てた時点では、住宅ローンをどのくらい滞納していたんですか?
弁護士さんに個人再生を相談した時点では、既に3カ月分ほど滞納していました。
なるほど。
住宅ローンの滞納自体は、住宅ローン特則の利用にあたって問題にならなかったんですか?
はい。
私もそれを心配してましたが…。

弁護士さんいわく、住宅ローンを滞納してても個人再生はできるし、住宅ローン特則も利用できるというお話でした。

なるほど。
基本的には、元々の住宅ローン契約書(原契約)の内容通りに、今後も支払いを続けることになります。
しかしそれとは別で、個人再生の開始前の滞納分(+利息や損害金)については、FXの借金と一緒に3年以内に返済することになる、と言われました。
ふむふむ。
つまり住宅ローンの遅滞分は、再生計画の3年間で返済して追いつくわけですね。

で、今後の住宅ローンの支払分は、元々の契約書の内容通りに支払うと。

はい。
それが、住宅ローン特別条項では『期限の利益回復型』といって、最も一般的なパターンだそうです。
読者の方のために、ここで住宅ローン特則の類型について、いくつか代表的なものを紹介しておきますね。
類型 説明
約定型 住宅ローンの滞納がない場合に、そのまま元々の契約通りにローンを継続して支払う方式。最もオーソドックスな方式の1つ。
期限の利益回復型 住宅ローンの滞納がある場合に、遅延分(元本+利息+損害金)を個人再生の再生計画の期間(3年間)で分割返済し、かつ今後の支払分は、元々の契約通りに支払う方式。
リスケ型 元々のローン契約の内容を変更し、住宅ローンの返済期間を最長10年以内の範囲で延長(リスケジュール)して貰った上で、滞納分と今後の支払い分を返済していく方式。
元本猶予期間併用型 個人再生の返済期間中(3年間)は、住宅ローンの元本の返済分を一部猶予して貰い、他の借金の完済に専念する。その後に返済額を加算し、かつ返済期間を延長して、滞納分と今後の支払い分を返済する方式。
※ 法律上は上記4つの方式が規定されていますが、実際の運用では7~8割が1)2)のどちらかになります。3)4)はその必要性があると裁判所が認めた場合のみ利用可能です。また上記以外の返済方式についても、銀行側の同意があれば可能ですので、弁護士に相談してください。
では矢野さんの場合は、個人再生の確定後も、元々の住宅ローンの契約通りに返済を続ける方法を選択したわけですね?

で、かつ過去の滞納分は3年間で返済して追いつくと。

はい、
そうです。

住宅ローン特則の巻き戻しについて

でも矢野さんの場合は、比較的、早い時期に弁護士さんに相談されたので、良かったですよね。
うーん、
そうですかね。
え? だって、
住宅ローンをあまり長期間、滞納してしまうと、代位弁済されてしまって、
保証会社に残りの債権が移転してしまいますよね。
代位弁済とは

代位弁済とは、通常6カ月以上、住宅ローンの滞納が続いた場合に、保証会社がローン債務を肩代わりして全額の支払を保証する手続きのことをいいます。これにより住宅ローン債務は、銀行から保証会社に移転します。
元々、住宅の抵当権登記(担保の権利)は保証会社にあることが一般的なので、住宅を競売にかけて売却する前の段階として、まず保証会社による代位弁済と、債権の移転が行われます。

そうなってしまうと、さすがに手遅れなんじゃないですか?
いえ、万が一、保証会社の代位弁済がされた後でも、代位弁済から6カ月以内なら、住宅ローン特則は利用できるそうです。
ええっ?!
そうなんですか?
はい。
そう弁護士さんに聞きました。

保証会社に債権が移ってから6カ月以内に個人再生を申立てれば、代位弁済は「無かったこと」になるそうです。

これを巻き戻しいうそうです。
巻き戻しとは

保証会社の代位弁済から6カ月以内に個人再生を申立てた場合、再生計画が裁判所に認可されれば、元々の銀行の住宅ローンが復活し、代位弁済は「最初から無かったこと」になります。これを巻き戻しといいます。
個人再生の認可確定後は、保証会社ではなく、元々の銀行に対して最初の契約通りの返済を再開することになります。(民事再生法198条2項)

保証会社の代位弁済がされたということは、もうローン債権は銀行の手を離れてしまっていて、保証会社は競売の準備に入ってる、ということですよね。

それでも間に合うんですか?

はい。
すでに保証会社が競売の手続きを進めていたとしても、個人再生を申立てた時点で、裁判所に「中止命令」を出して貰うことができます。
へえ…。
じゃあ、住宅ローンを滞納してから相当な期間が経過してても、まだ可能性はあるんですね。

最初に滞納した月から合計12カ月以内なら間に合うってことですか?

そうですね。

もちろん滞納分も含めて、収入的にちゃんと返済できる見込みがないとダメですけど。

※ 一般的に、住宅ローンを滞納してから保証会社が代位弁済するまでの期間(期限の利益を喪失するまでの期間)は、6カ月ほどと言われています。
そのため、代位弁済から6カ月以内まで間に合うということは、最初に滞納した月から12カ月以内なら(法律上は)住宅ローン特則付きの個人再生ができる、ということになります。

その他の個人再生のメリットは?

要するに、個人再生の場合は、自宅を守ることができるのが最大のメリット、ということですね?

それが理由で矢野さんは個人再生にしたんですか?

はい、
それが一番の理由ですね。

自己破産であれば借金がゼロになります。
それに対して、個人再生は借金を大幅に減らすことはできますが、ゼロにはなりません。

そうですね。
金額だけを考えれば、自己破産の方が得ですね。
はい、
でも敢えて自己破産ではなく個人再生を選んだ最大の理由は、住宅ローンの支払いをそのまま続けることができるからです。

自己破産だと、住宅は絶対に売却されてしまいますからね。

なるほど。
たしかに個人再生を利用する人の理由のうち半分くらいは、住宅を残すためだと聞いたことがあります。
※ 2014年弁護士会調査によると、個人再生を申し立てた人のうち約43%の人が、併せて住宅資金特別条項を利用しています。
でも、他にも理由があるんですよね?
はい。
先ほども述べましたが、私は自己破産するにあたって他に2つ懸念事項がありました。
1つは、保険セールスの仕事を続けられなくなる可能性があること。

もう1つは、海外FXで借金を作ったことが、免責不許可事由になる可能性があること。

はい、そうでしたね。
弁護士さんが言うには、個人再生であれば、上記2つはいずれも問題ないとのことでした。
おおお!
そうなんですね。
はい。
個人再生には、いわゆる破産者のような法律で定められた「欠格事由」がないので、職業制限は存在しないとのことでした。
また、借金を作った理由も聞かれないので、ギャンブルで作った借金でも問題ないそうです。

ギャンブルで借金した人は個人再生の方がいい?

なるほど。
これは債務整理を迷っている人の多くが気にしているテーマですよね。

ギャンブルが理由で借金をした人の場合、「自己破産」と「個人再生」のどちらがいいのか?

そうですね。
迷うと思います。
ギャンブルやパチンコ、投資で借金を作った場合でも1度目であれば、自己破産できる(裁量免責が下りる)という話もよく聞きます。
はい。
私もそう言われました。

免責不許可事由がある場合でも、反省しているかどうか、現在は生活を改めているかどうか、などを総合的に判断して、免責が下りる可能性はある、と。

実際に、統計上のデータでも、免責申立てのうち、免責不許可が下りる割合というのは実は1%もありません。
なるほど。
そうなんですね。
とはいえ実際には、最初から諦めて申立てを回避するケースや、裁判官に言われて自主的に取り下げるケースもあります。

また、明らかに過度なギャンブルで借金を作った場合には、最初から自己破産を受任してくれない弁護士もいます。

そうですよね。
私のFX仲間の話でも、弁護士さんに自己破産を受けて貰えなかった、という話を聞いたことがあります。
こればっかりは、個別の事情にもよりますので、弁護士に相談してみるしかなさそうですね。
※補足
2014年弁護士会調査によると、自己破産の申立て理由のうち、ギャンブルの占める割合はたったの3.87%しかありません。一方、個人再生の申立て理由のうち、ギャンブルが占める割合は11.02%もあります。
このことから、最初から自己破産を回避して個人再生を申立てているケースも相当数あるものと考えられます。この分の数字は、免責許可の割合の統計データからはわからないので注意が必要です。
まとめると、自己破産と比べた場合の個人再生のメリットは、

1.住宅ローン付の自宅を残せる
2.職業制限(欠格事由)がない
3.ギャンブル等の借金でも大丈夫

ということですね。