離婚の際に離婚協議書を公正証書で作成する流れ

離婚をするにあたって、相手に慰謝料や養育費の支払いが発生する場合には、その旨を「公正証書」という書類にしておくと有効です。公正証書は、法律の専門家である公証人の立ち会いのもとで合意内容を公文書にしたもので、その原本は役場に保管されますので、証明書としての証拠力が格段に強くなります。また「強制執行認諾文言」というのを付けておけば、将来、相手方が慰謝料や養育費の支払いを怠ったときにも、裁判をすることなく直ぐに相手方の預金や給与債権に強制執行をかけることができます。

離婚の慰謝料や養育費は公正証書にしておくべき?
ねえねえ、先生ー!
離婚するにあたって、元夫が、慰謝料とか今後の養育費を将来ずっと継続的に払ってくれるのか不安なんだけど、やっぱり「公正証書」っていうのを作っておいた方がいいのかな?
もちろん、作らないよりは作っておいた方が安心だろうね。自分たちだけで作った一般的な「離婚協議書」でも法的な拘束力はあるけど、実際に相手が支払いを怠ったたときに強制執行するためには、離婚協議書を「証拠」として1から裁判をしないといけない。
強制執行っていうのは、元夫の銀行の預金とか、給与の支払いとかを差押えて、強制的に約束した慰謝料や養育費を払って貰う法的手続きのことだよね。なるほど、離婚協議書を作っておけば証拠にはなるけど、でも裁判しないといけないのは大変だね。
一方、公証役場で公証人の立ち会いのもと「公正証書」を作成しておけば、相手が約束を破って養育費等の支払いを怠ったときに、裁判をしなくても直ぐにそのまま強制執行ができるんだ。正確にいうと「強制執行認諾文言※」っていうのを付けてれば、の話だけど。
なるほどなー。
それじゃあ公正証書にしておいた方が良さそうだね。でも公正証書って、妻側が勝手に作って役場に届ければいいわけじゃないんでしょ? 夫の実印(押印)があれば大丈夫なのかな?
いや、公正証書は2人揃って役場に出向いて2人の確認のもとで公証人が作成するものだから、素人が勝手に作ることはできないね。ただし2人で揃って行けない事情がある場合は、代理人を用意して「嘱託委任状」を書いて貰えば、行くのは本人でなくても大丈夫。
代理人はOKなのか・・・。
じゃあ夫に委任状を書いて貰って、妻が夫の代理人になれば、公証役場に出向くのは、妻1人だけでも大丈夫なんじゃないかなー? どう、名案でしょ!?
いや、名案じゃないよ(笑) それは自己契約双方代理(同じ1人の人物が、契約当事者2人の代理人になること)といって、公正証書だけじゃなく大体どの法律でもダメだよ。2人ともが別々の代理人を立てるのは可能だけど、同じ人物が兼ねるのは無理だね。
  • 離婚協議書だけでも法的効力はある。裁判の際は重要な証拠となる。
  • 公証役場で「公正証書」を作成して貰っておけば、証明力が格段に強くなる
  • 強制執行認諾文言付きの公正証書なら、いざという時すぐに強制執行できる
  • 公正証書は公証人が作成する。元夫婦2人で揃って役場に出向く必要がある
  • 嘱託委任状と印鑑証明書があれば、代理人でも可。ただし双方代理は不可。

そもそも離婚協議書って何? 離婚協議書を作る意味

離婚するにあたって、慰謝料や養育費の支払いが発生する場合には、お互いのためにも必ず書面のかたちで残しておくことが重要です。たまに養育費の支払いなどを口約束で済ませてしまう方もいますが、後々トラブルの元になる可能性が高いです。

口約束であっても法律上、約束は有効です。しかし、いざ元夫が約束した養育費や慰謝料を支払わなくなったときに、「約束したこと」の証拠がなければ裁判をすることも難しくなります。

口約束だと証拠にならない

例えば、月々6万円の養育費の支払いを約束していたとしても、「そんな約束したっけ?」とか、「え?3万円って話だったよね?」と言われてしまえば、証拠がなければ何もできません。約束したことを「証拠」として残すために、離婚協議書などの文書のかたちで残しておくことが重要なのです。

元夫側の立場

これは逆のケースでも同じです。元夫の立場からしても、後から「やっぱり財産分与が足りないんだけど」「あの時、慰謝料は要らないといったけど、やっぱり払ってくれない?」と言われたときに、きちんとお互いの債権債務不存在を確認した合意書を作っていなかった場合、困ることになります。

後出しで請求の可能性も-図

財産分与の請求権は2年(民法768条2項)、不倫等の不法行為による慰謝料の請求権は3年(民法724条)です。これらを「請求しない」という約束を書面にして残していない限り、口約束で「慰謝料は要らないわよ」と言われたとしても証拠がありませんので、後から請求されたときに拒否することが難しくなります。

そのため、財産分与や慰謝料の支払いなどが一切ない場合でも、「お互いに債権債務はないよ」ということを書面にして残しておくことが重要なのです。





離婚協議書には、法的な効力はどのくらいあるの?

さすがに「文書にしておいた方がいい」「離婚協議書を作っておいた方がいい」ということまでは、常識としてご存知の方も多いと思います。

そのため、ネット上にある離婚協議書の雛型などを用いて、とりあえず2人で合意した内容をもとに離婚協議書を作っている場合もあるでしょう。こういった自分たちで作った協議書でも、ちゃんと署名捺印されたものであれば、もちろん法律上は有効です

自分たちで作成して書面捺印したものでも
勿論、法的な効力はある。-図

もし将来、離婚協議書の内容をもとに裁判をする際には、重要な証拠となります。なので、最悪、自分達だけで作ったものでもいいので、離婚協議書はしっかり作っておくべきです。

違法な約束は無効

ただしよく誤解されていますが、2人で合意した内容であればどんな約束でも有効になるわけではありません。民法の強行法規※に違反する内容や、公序良俗に反する内容は、たとえ署名捺印があっても認められません。

例えば有名なところでは、以下のような離婚協議書の合意は、法的に無効になります。

  • 「養育費は要らない」という養育費の請求権を一切放棄する合意
  • 「子供とは一切会わない」という子供との面会拒絶の合意
  • 離婚後に「親権変更の申立てを絶対しない」という合意
  • 慰謝料等に対する利息で、利息制限法に違反する高金利の合意

 
例えば、養育費は「子供の利益を最も優先して考慮しなければならない(民法766条1項)」ものであり、子供のための権利です。これを母親が勝手に「将来に渡って、今後一切請求しない」という約束をすることはできません。

もちろん母親が収入に困っていない場合に、当面は「養育費は要らない」ということはできますが、離婚の時点で、将来に渡って一切の請求を放棄する約束をしても法律上は無効です。

離婚協議で法律上無効になるもの-イラスト

その他の条件についても、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

【参考】離婚協議書で合意していても法律上、無効になる約束(準備中)

なお、このような無効な約束が1個あるからといって、離婚協議書の全てが無効になるわけではありません。ですが心配な方は、やはり行政書士や弁護士などの専門家に依頼して、離婚協議書を作成した方が安心かもしれません。

協議書、合意書、契約書、どれでも法的な効力は同じ

ちなみに、なんだか「離婚協議書」だと名前からして法的効力が弱そうな気がしますよね。「協議書」だと強制力が弱そうなので、「離婚合意書」や「離婚誓約書」にした方がいいのかな?と悩まれる方もいるようです。

しかし結論からいって、名前は何でもいいです。法的な効力は全く同じです。

協議書、誓約書、合意書、どれも債権債務の存在や合意内容が記載してあり、署名押印がしてあれば法的効力は同じ。

一般社会での慣習上はともかく、民法上は、契約書、合意書、念書、誓約書、協議書、などの名前は関係ありません。債務債権の存在や合意内容が記載してあり、署名や捺印があれば効力は同じです。

いずれも法律上は有効ですし、もし相手がその内容に違反して約束した養育費や慰謝料、財産分与などを支払わなかった場合には、書面を証拠として裁判をすることができます。





離婚協議の内容を「公正証書」にしておくメリットは?

さて、ここまでは協議内容を「離婚協議書」として文書に残しておくことが重要だ、ということを説明しました。ここからは更に1歩進んで、「できれば公正証書にしておいた方がいいよ」というお話です。

公正証書とは簡単にいうと、国(法務省)が2人の合意した約束の内容を第三者として客観的に保証してくれる書面です。

法務省管轄の公証人が、客観的な立場から法的証拠力の高い証書を作成してくれる。-図

作り方は、公証役場というところに元夫婦2人で出向いて、公証人が2人の合意内容をもとに作成した「公正証書」に2人で印鑑を押して作成します。国の公証人が作成するものですから、当然、2人だけで考えて作った合意書よりも証明書としての効力が強いわけです。

公正証書の原本は公証役場で保管されますので、後で離婚協議書を紛失したり、改竄されたりといった心配もありません。法律の専門家がチェックして作成するものなので、前述 のように「法的に無意味」な約束をしてしまうミスもなく、ちゃんと法的に有効な協議書を作成できます。

公正証書の一番のメリットは「強制執行」が簡単にできること

強制執行とは、相手方が離婚協議書で合意した養育費の支払い等を怠った場合に、裁判所に申し立てて、強制的に預金口座や職場の給与債権を差押えて回収することができる法的な手続きです。

通常、この強制執行手続きをするためには、まずは訴訟を提起する必要があります。まず裁判で勝訴の確定判決を得てから、その判決正本をもとに裁判所に強制執行の申立てをおこないます。離婚協議書だけしかない場合も、この手順を踏まなければなりません。

通常の離婚協議書での強制執行までの流れ-図

一方、既に公正証書を作成してある場合は、相手方が養育費等の支払いを怠るなど、協議内容に違反した場合、裁判をすっ飛ばしていきなり強制執行を申立てることができます。

そもそも裁判は、離婚協議書などの証拠をもとに「本当に相手に支払い義務が存在するかどうか?」を争そうものです。支払い義務がない人の財産を勝手に差押えるわけにはいきませんから、まずは裁判によって「債権債務が本当に存在する」ことを法的に確定させる必要があるのです。

公正証書の場合は、既に役場で公証人が債権債務の存在を確認しているので、このステップが必要ないわけですね。

公正証書がある場合の強制執行までの流れ-図

これが公正証書を作成しておく一番のメリットです。

相手の銀行口座や勤務先を知ってることが前提

ただし、たまに誤解されることがあるので最初に断っておきますが、相手方の預金口座や職場がわからない場合は強制執行はできません

強制執行手続きは、相手方の勤務先や預金口座などが特定できている場合に、裁判所に「差押命令」を出して貰える、という手続きであり、裁判所が相手の財産を調査してくれるわけではありません。あくまで、銀行預金や勤務先の特定は自分でしなければなりません。

離婚で公正証書を作成する方法、作成までの流れ

まず公証役場は、裁判所の調停ではありませんので、その場で話し合って協議内容を一緒に決める場所ではありません。証書の内容については、あらかじめ2人で話し合って合意しておくことが前提です。

最初に流れだけ説明しておくと、以下のようになります。

公正証書作成の流れ-説明図

役場の公証人は、「その約束は法律上できないですよ」といった法的なアドバイスはしてくれますが、夫婦どちらかの味方をすることはありません。2人の合意内容に従って公正証書を作成するだけが仕事なので、内容については事前にしっかりと詰めておきましょう。





あらかじめ夫婦2人で話し合って決めておくべき内容

例えば、慰謝料の金額や支払い時期、財産分与の方法、養育費の金額、支払い期間、といった内容は、先にあらかじめ2人で決めておく必要があります。2人で決められない場合、相場がわからない場合は専門家に相談してください。

一般的には、あらかじめ話し合いで決めておくべき離婚協議の項目は以下になります。

(1)子供の親権者を母親にするか、父親にするか
(2)子供の養育費の金額、毎月の支払日、支払い開始日、いつまで払うか
(3)子供の入学費や授業料、入院治療費などの特別費用があった場合の分担方法
(4)子供の面会や交流の頻度や方法について
(5)慰謝料の金額(一括払いか分割払いか)、支払期間
(6)財産分与(金銭分与の金額、車や住宅などの財産分与の内容)
(7)年金分割(通常は夫婦で50%の按分分割にするケースが多い)

慰謝料は、例えば浮気や不倫が原因による損害賠償請求の相場は50万円~300万円と言われており、相手に明らかに支払い能力がないにも関わらず「慰謝料は1000万円で」といった取り決めをしても無効です。(相手に支払い能力があって、かつ合意している場合は可能です)

その他、養育費や財産分与等の項目について「相場がわからない」「決め方がわからない」という方は、以下の記事で別途、詳しく解説していますので、参考にしてください。

【参考】離婚の慰謝料や養育費、財産分与の決め方や相場は?(準備中)

また公正証書を作成する際に、以下の「清算条項」「通知義務」「強制執行認諾文言」などの事項を盛り込むかどうかを決めておいてください。普通は盛り込むことが多いです。

清算条項とは

清算条項とは、「この公正証書にある内容が全てで、これ以外にはお互いに債権債務がないことを確認する」という条項です。つまり、この公正証書による離婚協議で出ている約束が全てで、後から「やっぱり追加で払って欲しい」というのはナシですよ、という確認条項です。

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通知義務とは

通知義務とは、「住所や連絡先、勤務先などに変更があったときは、ちゃんと連絡してね」という約束条項です。例えば、夫が養育費の支払い義務を負っているのに、引越したまま連絡が取れなくなってしまったら困りますよね。

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強制執行認諾文言とは

強制執行認諾文言(強制執行認諾約款)は、「この公正証書で定めた支払いの約束を履行しなかったときは、直ちに強制執行をして取り立てるよ」ということに合意する文言です。この文言は非常に重要で、この執行認諾文言(強制執行認諾約款)がなければ公正証書にする意味がない、といっても過言ではありません。

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さて、上記の内容について、話し合って決まった場合は、その内容を書面にまとめます。離婚協議書のフォーマットでまとめてもいいですし、形式に拘らずわかりやすい文書でメモのように書き留めておいてもOKです。

まずは夫婦どちらかが公証役場に行って面談する

概ねの合意書ができたら、まずは夫婦のどちらかが公証役場に出向いて公証人と簡単な相談をします。公証役場にもよりますが、通常、その日のうちに公正証書が発行されることはありませんので、最低2度は役場に行く必要があります。

1度目の公証役場

まず一度目は、相談や説明のために公証役場に出向き、離婚協議の合意内容を伝えます。またその際に当事者2人の身分証明書も提出をします。1度目は夫婦のどちらかだけで大丈夫なことも多いですが、一応、管轄の公証役場に確認してください。

またその際に、作成した合意書と、以下の必要書類を提出してください。身分証明書は(1)のいずれか1つで大丈夫ですが、夫婦2人の分がそれぞれ必要です。

必要書類について

  • 運転免許証、印鑑登録証明書、パスポート、住民基本台帳カード(顔写真入り)
  • 財産分与に車がある場合は、自動車の車検証
  • 不動産がある場合は、登記簿謄本、固定資産評価証明書、住宅ローン契約書
  • 子供がいる場合、戸籍謄本(全部事項証明書)、離婚の届出済証明書類
  • 年金分割がある場合は、年金手帳、年金分割のための情報通知書

 
2人揃って公証役場に行く場合には、身分証明書はコピーではなく現物を持参してください。本人かどうかを確認するため、顔写真のない健康保険証や住民票では受け付けて貰えない可能性があります。

事前相談のために夫婦のどちらか片方(妻)だけが公証役場に出向くケースで、もう片方(夫)の身分証明書の現物が用意できない場合は、その旨を事前に公証役場に確認してください。コピーやFAXでも大丈夫な場合もありますが、その場合は、署名押印の当日に再度、現物を提示する必要があります。

公証人は合意書をもとに公正証書の原案を作成する

公証人は1日目の相談の合意書をもとに、公正証書の原案を作成します。この原案の確認はFAXや郵送、メール送信などで夫婦2人に送るかたちで行われることが多いです。

2度目の公証役場

公正証書の原案に問題がなければ、日程を決めて今度は元夫婦2人で公証役場に出向いて、署名押印をして手続きは完了です。

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当日は必ず印鑑を忘れずに持って行ってください。身分証明書に「印鑑登録証明書」を提出した場合は、印鑑は実印でなければなりません。それ以外の、運転免許証やパスポートなどで身分証明をした場合には、印鑑は認印で大丈夫です。

また公正証書の作成・調印にあたって、当日は公正証書の手数料を現金で支払う必要があります。費用は離婚協議書の債務の金額によって変わります。

公正証書の費用

目的価額 手数料
100万円以下 5000円
100万円超~200万円以下 7000円
200万円超~500万円以下 11000円
500万円超~1000万円以下 17000円
1000万円超~3000万円以下 23000円
3000万円超~5000万円以下 29000円
5000万円超~1億円以下 43000円

 
例えば、財産分与と離婚慰謝料と将来の養育費の合計の請求額が600万円であれば、手数料は1万7000円になります。

本人ではなく代理人が公証役場に行く場合の注意点

なお夫婦2人で揃って出向くことが難しい場合は、代理人でも問題ありません。ただし代理人が行く場合は、本人の嘱託委任状が必要です。

公正証書は債務名義を確定させる手続きですから、本人の同意なく間違って公正証書が作成されることは絶対にあってはなりません。そのため単に「委任します」というだけの白紙委任状(委任する内容がわからない委任状)ではダメで、必ず合意する内容(事前にチェックしている公正証書の原案)を委任状に添付して、以下の図のようにします。

公正証書の委任状の作り方-図

表紙の委任状の後ろに公正証書の原案をホッチキスで留めて、すべてのページに同意したことを示すために、最終ページまでを実印で契印してください。2枚以上の書類を自分が添付したものであると証明するために、ページとページの間に印鑑を押すことを「契印」といいますが、この契印がなければ委任状が認められない場合があります。

さらに、公正証書作成の日以前から3カ月以内の印鑑証明書をあわせて提出してください。

表紙の委任状は通常、以下のようなものになります。特に強制執行認諾文言の有無は重要なので、委任状で意思を表明することが多いです。

委任状

私は、(住所)(氏名)

を代理人と定め、次の契約事項について公正証書作成嘱託に関する一切の権限を委任する。

1.契約内容は添付書面のとおりとする。
2.強制執行認諾条項を付する。

上記のとおり相違なく委任した。

平成 ○年 ○月 ○日

        住所:
        職業:
        氏名:(実印)
        生年月日:

なお冒頭でも説明しましたが、元妻が元夫の代理人を兼ねたり、元夫が元妻の代理人を兼ねることはできません。また同じ一人の代理人が、元妻と元夫の両方の代理人を務めることもできません。

自己契約と双方代理の説明図

これらの行為をそれぞれ、「自己契約」「双方代理」といいますが、公正証書の作成ではこれらの代理の方法は認められません。

公正証書の正本と謄本交付

無事に調印が済んで公正証書が完成すれば、債権者には正本が、債務者には謄本が交付されます。

例えば、元夫が元妻に養育費や慰謝料を支払う公正証書であれば、形式上、元妻が債権者、元夫が債務者になりますので、元妻に公正証書の正本が、元夫に公正証書の謄本が交付されることになります。

原本は公証役場に保管されますので、万が一、交付された公正証書を紛失してしまったとしても、また手数料を支払えば公正証書を再発行して貰うことが可能です。

強制執行するために送達証明書を申請しておくこと

なお債権者(妻側)は、将来もし強制執行をすることになった場合には、相手方に公正証書の謄本が届いていることを証明する「送達証明書」を裁判所に提出する必要があります。

なので公正証書の謄本が交付された段階で、公証役場に「送達証明申請」をおこない送達証明書を貰っておいてください。手数料は250円程度です。

交付送達と特別送達

債務者(元夫)本人が公証役場に出向いている場合は、当日中に公証人から直接、公正証書の謄本が元夫に手渡されて交付が完了します。これを交付送達といいますが、交付送達の場合は債権者(元妻)はその日のうちに送達証明を申請できます。

一方、債務者(元夫)本人ではなく代理人が押印に来ている場合は、代理人に公正証書の謄本を渡すことはできません。つまり交付送達はできませんので、特別送達になります。

公正証書の交付送達と特別送達の違い-図

特別送達の場合は公正証書の謄本は後日、債務者本人宛に郵送されます。(郵便ポストに投函されるのではなく、郵便職員が直接、手渡しで交付します)。この特別送達の場合は、後日、元夫が公正証書の謄本を受け取ったのを確認した後に、元妻が送達証明書を申請する流れになります。
 

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