競売でもし事故物件を落札してしまった場合どうなる?

タイトル

競売物件でもし例えば殺人などの刑事事件や、自殺、孤独死などの事故があった場合、それが調査の段階でわかっていれば、物件資料(現況調査報告書や評価書)にその旨が記載されます。当然、物件の評価額にもそれが反映されます。しかし、もし裁判所の執行官もそれに気付かず、後で事故物件であることが発覚した場合、返金や損害賠償請求はできるのでしょうか?

競売で落札後に事故物件であることに気付いたらどうなる?
ねえねえ、先生ーっ!
競売物件の落札は、たしか裁判所が瑕疵担保責任を負ってくれないから、完全に自己責任だって話だったよねー。もし報告書に記載がなくて、気付かずに事故物件を落札してしまった場合、どうなるのー?
もし裁判所の執行官も、現地調査のときに事故物件だと気付かなかった場合(または裁判所の調査後に自殺などの事故がおきた場合)で、買受人が落札後にそれに気付いた場合、代金納付前であれば、売却許可決定取消しの申立てができる
なるほどー、
さすがに事故物件の場合は多少は、救済措置があるんだねー。もし売却許可決定取消しの申立てが認められたら、ちゃんと保証金も返ってくるのー?
そうだね、保証金は戻ってくるよ。単なる病死や孤独死とかだと、必ずしも取消しが認められるわけではないんだけど、明らかに不動産価値が損傷するような事故(刑事事件、自殺など)の場合で、評価書にも記載がなかった場合は、取消しが認められる可能性はあるね。
ふむふむ。
じゃあ、もし代金納付後に事故物件だと気付いた場合はどうなるのかなー? 裁判所側も「事故に気付かなかった」っていう意味で、ちょっとは落ち度があるんだから、この場合は責任持ってくれないの?
うーん、競売の場合、代金納付後はどうしようもない、というのが現実だね。「執行官の現況調査に過失があった」というのを理由に、国家賠償法1条などを根拠にして損害賠償請求することはできるけど、過去の判例をみるとそれも厳しいだろうね。
  • 競売の場合、裁判所に瑕疵担保責任はないので、原則、落札は自己責任
  • ただし事故物件(自殺、事故死)で評価書にも記載がなかった場合は別
  • 代金納付前であれば、民事執行法75条の売却許可決定取消し申立てが可能
  • 売却許可決定取消しが認められれば、保証金は戻ってくる。
  • 代金納付後は原則、どうしようもない。代金納付前にしっかり調査すること

競売では事故物件が気付かずに売られることがある?

競売ではときどき自殺や事故、不審死などの訳あり物件が、事故物件だと気付かれないまま売りにだされてしまうことがあります。

もちろん競売物件の売却にあたって、裁判所の執行官(職員)や不動産鑑定士は、ちゃんと物件を評価・鑑定し、詳細な報告書を作成しています。しかしそれでも、事故物件であることに気付かないまま、売られてしまうケースがあります。

なぜ裁判所は事故物件を見落とすことがあるのか

もし調査の段階で事故物件であることに気付いていれば、その競売物件の報告書には、特記事項などに「事故死」であることが記載されます。また不動産の鑑定額も、それに伴って大幅に減価されますので、かなり激安な買受可能価額が設定されます。

しかし、実際には以下のような理由から、どうしても事故死に気付かないケースも存在します。

  • 競売の物件は申立数も膨大で、それらを滞りなく処理しなければならない
  • 1つの物件にかけられる費用(人件費、調査費)や時間には制限がある
  • 競売の売却代金は債権者の配当原資なので、なるべく調査費は抑える必要がある
  • 競売の場合、必ずしも所有者の積極的な協力を得られないので、情報が得にくい
  • 調査時から実際に物件が売りに出されるまでに3カ月~半年のラグがある

 
競売にかかる調査費用などの執行費用は、まず住宅の売却代金から差し引かれて、残りが債権者に配当されます。つまり、あまり調査費をかけすぎると、その分、債権者の配当原資が減ってしまいます。

競売の予納金のなかから支出されるため、使える費用には制限がある―執行費用の説明図

また競売の場合、所有者の意に反して物件が売りに出されることも多く、所有者の協力が得られない場合や、下手をすると所有者と全く連絡が取れない(失踪している)ケースもあります。

他にも、調査時には普通に所有者が住んでいたのに、その後、落札までの間に所有者の方が自殺してしまっていた、というケースもあります。これらの理由から、事故物件にあたっても調査時に気付かず、そのまま普通の物件として売られてしまう場合があるのです。

競売手続きでは裁判所に瑕疵担保責任はない

一般的な不動産取引であれば、売買契約の締結後に「自殺物件であった」「過去に殺人事件があった」など、事故物件であることに気付いた場合は、売買契約の取消しや、瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求をすることが可能です。

しかし競売手続きでは、裁判所はこの瑕疵担保責任が免責されています(民法570条

競売での裁判所の瑕疵担保責任―説明図

そのため、代金納付を済ませて所有権移転が完了してしまったら、後から自殺物件であることがわかったとしても、裁判所に返金を求めたり、損害賠償請求をすることはできません。

もし落札を取りやめることができるとすれば、代金納付の前までです。不安な場合は、代金納付をする前までに少なくとも1度はしっかりと周辺調査や聞き込みをおこなっておくべきでしょう。

代金納付前であれば、売却決定取消しの申立てが可能

競売では、物件の落札後、まず裁判所から「売却許可決定」がでます。その後、「代金納付通知書」が送られてきて、代金を納付した時点で正式に所有権移転が完了します。

代金納付時点で所有権が移転―説明図

もし物件の代金納付前に、事故物件であることに気付いた場合には、民事執行法75条により売却許可決定の取消しができる可能性がります。

この条文は本来、入札後に地震や津波など、やむをえない理由で物件が損傷した場合に、執行裁判所に売却許可の取消しを申立てることのできる制度ですが、自殺などの事故物件で評価書に記載がなかった場合にも、類推適用できるとされています。

不動産が損傷した場合の売却の不許可の申出等

最高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定前にあつては売却の不許可の申出をし、売却許可決定後にあつては代金を納付する時までにその決定の取消しの申立てをすることができる。(民事執行法75条

競売では、入札のときに売却基準価額の2割程度を保証金として裁判所に支払う必要がありますが、もし売却許可決定の取消しが認められた場合には、この保証金も無事、取り戻すことができます。

すいません、事故物件だと知らなかった(報告書に記載がなかった)ので、買うの辞めます。―イラスト

ただし、不動産の損傷が軽微であるときには、この売却許可決定の取消しは認められません。

「所有者が自殺してしまった場合はどうなのか?」「病死の場合はどうなのか?」「孤独死などで、死後1週間以上に渡って放置されてしまった場合はどうなのか?」といった個別ケースについて、取消しが認められるかどうかはケースバイケースです。当然、認められない場合もあります。

なお、もし売却決定の取消しが認められなかった場合(申立てが却下された場合)には、買受人は執行抗告により、不服申立てをすることができます。

最終的に売却許可決定の取消しが認められなかった場合

売却許可決定取消しの申立てが却下され、かつ執行抗告も棄却された場合、どうなるのでしょうか?

この場合、もはや売却許可決定を取消すことはできません。しかし不幸中の幸いにして、まだ代金は納付する前ですから「残りの代金は納付しない」という選択肢が考えられます。

残りの代金を納付せず、保証金は捨てるケース―説明図

もちろんこの場合、先に支払った2割の保証金は没収されてしまうことになります。かなり手痛い決断になりますが、被害を最小限に留めるための1つの方法ではあります。

代金納付後は、事故物件に気付いても手遅れになる?

残念ながら競売の場合、代金納付後はもうできることはあまりありません。
前述のように、裁判所は瑕疵担保責任を負いませんので、競売による落札を取り消したり、民法をもとに損害賠償を請求することはできません。

国家賠償法をもとに損害賠償請求訴訟をした事例

過去には、不動産業者などが「自殺物件であることを報告書に記載していなかったことは、執行官による調査義務の違反である」として、国家賠償法1条1項をもとに損害賠償請求をおこした事例があります。

執行官の現況調査時の過失だとして、過去に国に損害賠償請求をした事例はある。―説明図

競売にあたって現地調査をおこなう執行官は国家公務員ですので、もし「自殺物件に気付かなかったこと」が、過失による不法行為だと認定されれば、国家賠償法による損害賠償請求ができます。

しかしこれらの請求は、調べる限りいずれも棄却されているようです。

公務員の不法行為と賠償責任

国または公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる(国家賠償法1条1項

さいたま地方裁判所の判例

競売の現況調査には、時間的・経済的・その他、関係人の協力が得られない等の調査活動上の制約があり、また現況調査の目的は、主に不動産の形状や占有者の調査であるため、死因の調査をしなかったことは、調査義務違反にはあたらず、過失はなかった、とした判例
【参考】:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/301/037301_hanrei.pdf

福岡地裁(平成17年9月12日判決)

同様に、不動産の調査の過程で、元所有者が自殺したことを窺わせる具体的な情報がなかった場合には、近隣住民や管理人から死因等について聞き込み調査を行うまでの義務はなかったとして、過失や調査義務違反はない、とした判例
【参考】:http://www.retio.or.jp/attach/archive/67-092.pdf

いずれの場合も、裁判所(執行官)の調査にあたって、死因が自殺であることを見落としてしまっていたとしても、通常の方法で調査している限り、執行官に過失や損害賠償責任はない、という判断が示されています。

もともと競売は、このようなケースがあることも想定して、市場価格より3割近くも低い価格相場で売買されています。そのため、やはりこの辺りは自己責任ということになりそうです。

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