滌除(てきじょ)と抵当権消滅請求の違いは?

滌除(てきじょ)と抵当権消滅請求の違いは?という質問をたまに聞きますが、この2つは同じものです。滌除は2003年の民法改正で既に廃止されている制度であり、滌除の代わりに新しくできたのが抵当権消滅請求だからです。滌除の制度はナニワ金融道でも登場するなど、法的な穴があり悪用されやすい制度でもありました。今回の記事では滌除と抵当権消滅請求の違いについて解説します。

滌除ってどんな制度?抵当権消滅請求との違いは?
ねえねえ、先生ー!
前回の記事でもちょっと聞いたんだけど、抵当権消滅請求制度ってもともとは滌除(てきじょ)っていう名前だったんだよねー?これって何が変わったのかなー?
滌除も抵当権消滅請求と同じく、不動産を取得した第3者が抵当権を抹消するよう債権者に請求するための制度だったんだね。ただしそのルールが著しく債務者や第3取得者に有利な仕組みだったせいでしばしば悪用されたんだ。
ふーん、なるほどー。
制度として穴や欠点があったから、それを改正するかたちで出来たのが抵当権消滅請求ってことだねー? 具体的にはどういうところが今の抵当権消滅請求とは違ったのー? 
例えばまず競売について。滌除の申立てを受けたときに、債権者が対抗措置として競売手続きができるのは、今の抵当権消滅請求と同じなんだけど、その猶予期間が1カ月しかなかったんだ。それに競売は【増加競売】という方法を利用する必要があった。
ぞ、増加競売ー?
それって普通の競売手続きとはまた違うのかなー?
違うね。増加競売は滌除権者が提示してきた金額よりも、1割以上高い値段での落札を保証しなければならない競売のことなんだ。つまり1割以上高い値段の保証金を用意する必要があった上に、最悪、自分で買い受ける義務があった。凄くハードルが高かったんだね。
  • 滌除は平成15年民法改正により廃止され、代わりに抵当権消滅請求ができた
  • 滌除への対抗措置は増加競売しかなく、さらに申立て期限は1カ月しかなかった
  • 増加競売の場合、滌除の提示金額の1割増しの保証金を用意する必要があった
  • さらに競売落札者が現れなかった場合、1割増しで実際に買受義務があった

滌除の制度が廃止され、改正となった理由

任意売却をするにあたって「後順位抵当権者が担保解除に応じてくれない」「不当に高額なハンコ代を請求されてしまう」といったケースは決して珍しくありません。本来、配当を得ることのできない後順位抵当権者は法的に1円も受け取ることができないはずなのですが、抵当権を解除してくれないと住宅が売れないので、仕方なく担保解除料を支払う慣習が不動産業界にはあります。

ハンコ代の説明図

ただしあまりに高額なハンコ代を要求してくる後順位抵当権者への対策として、過去には滌除(てきじょ)という制度がありました。これは売主から物件を取得した第三者が、債権者に「抵当権を消滅してください」と要求することができる、という制度です。

滌除の説明(住宅を購入/取得した第三者が、債権者に抵当権を解除するよう要求することのできる制度です。)

仕組みそのものは今日の抵当権消滅請求と同じですので、抵当権消滅請求をご存知ない方はまず以下の記事をお読みください。

趣旨としては今の抵当権消滅請求と同じなのですが、過去にあった滌除という制度は、かなり債務者側や買主側に偏って有利な制度でした。そのため、滌除を悪用して大儲けする不動産業者(いわゆる滌除屋)なども出現し、制度は廃止・改正される流れになりました。具体的には、滌除の制度は何が問題だったのでしょうか?

競売を申し立てられる期間は1カ月しかなかった

滌除の制度として、「○○万円を支払う代わりに抵当権を解除してくれ。この条件をのめない場合は期限までに競売にしてくれ」というように、金額を提示して抵当権解除を要求するところは抵当権消滅請求と同じです。ただし対抗措置として競売を申立てられる期限は1カ月しかありませんでした

つまり1カ月以内に競売を申立てなかった場合は、滌除により抵当権が強制的に抹消されてしまうかたちでした。
滌除の要求があった場合、銀行などの金融機関は「競売にすべきかどうか」を判断するために、改めて登記などの権利関係を確認したり、不動産鑑定士に物件の評価を依頼したり、競売手続きを準備する必要があり、1カ月というのはなかなか厳しい期限だったんですね。

現在の抵当権消滅請求では、この期限は2カ月に延長されています。

増加競売(増価競売)を申立てる義務があった

さらに債権者にとって不利だったのは、滌除の請求に対抗するためには、通常の競売ではなく増加競売という仕組みを利用しなければならなかった点です。

増加競売とは?

増加競売(増価競売ともいいます)は、滌除で提示された金額よりも1割高い価格で落札されることを保証しなければならない特殊な競売手続きのことです。例えば、滌除権者が「1000万円で抵当権を解除してください」という要求をしてきた場合、これに増価競売で対抗するためには、1100万円以上の価格で落札されることを保証する必要がありました。
この保証のために、債権者は保証提供金義務(民事執行法旧186条)を負わなければならず、なんと1100万円もの保証金を積み立てなければ競売が出来ませんでした。

増加競売の買受義務

さらに増加競売では、1割以上高い価格での落札者が現れなかった場合には、1割以上高い価格で債権者自身が物件を買受けなければならない、という買受義務がありました。上記の例でいえば、競売にして1100万円以上で落札されなかった場合は、1100万円で買い取らなければならなかったのです。

 
このように増加競売というのは、通常の競売にくらべて非常に申立てのハードルが高いものでした。特に保証金を用意しなければならなかった、というのが実務上かなり負担が大きかったようです。ただでさえ、前述のように申立てまでの期限が1カ月しかなかった状況です。そのため、滌除で提示された金額が安すぎるものであっても、保証金が用意できずに泣く泣く滌除の要求をのむケースが散見されました。

例えば、時価で1500万円以上、競売にしても1000万円は回収できる物件でも、滌除により「500万円で抵当権を解除してくれ」と要求された場合、550万円の保証金や買受保証ができない場合は、要求をのむしかない、というおかしな制度だったわけですね。

滌除を利用して安すぎる金額を提示するケース-説明漫画

ちなみに現在は、この増加競売も民法改正により滌除とともに廃止されています。いまの抵当権消滅請求では、通常の競売手続きをもって対抗することができ、保証金や買受義務もなくなりました。

抵当権実行の前に通知をして1カ月待つ義務があった

抵当権消滅請求の場合は、債権者による抵当権実行による差押え後はこの請求できません。そのため、先に債権者が差押えてしまえばいいわけですが、昔の滌除の仕組みではこれができませんでした。

滌除権者に対しては、滌除権行使の機会を与えてあげるために、わざわざ債権者が競売手続きをする場合には事前通知をする義務を負っていたのです。しかも通知後1カ月待たなければ抵当権実行ができなかったため、その間に滌除を利用されてしまったり、その他、競売の執行妨害のような工作をされることがしばしばありました。

滌除権者保護のため事前通知が義務付けられた-説明図

そもそも抵当権が設定されている時点で競売の権利があることは明白であり、わざわざ事前通知をして1カ月も待つ必要はなさそうなものですが、昔はそういう制度だったわけですね。

さらに当時は、短期賃貸借制度という同じく欠陥のある制度が存在したために、抵当権の執行妨害が今よりも容易な状況だったことも問題でした。(この短期賃貸借制度も平成15年の民法改正により廃止されています)

短期賃貸借制度

通常、「抵当権設定登記後の賃借権は、抵当権に対抗できない」というのが原則です。どういう意味かというと、抵当権が設定された住宅に対して、誰かが賃貸借契約(賃貸)で借りて住み始めたとしても、その住宅が競売により第三者に落札された場合、落札人に住宅を明け渡さなければならない、ということです。ところが昔あった短期賃貸借制度では、「3年未満の短期の賃貸借契約であれば抵当権に対抗できる(土地の場合は5年)」という例外ルールがありました。

制度を悪用した執行妨害

賃貸借権が抵当権に対抗できてしまうと、落札しても賃借人が住宅に居座り続けるわけですから、競売で落札されにくくなってしまいます。そのため、抵当権実行の執行妨害を目的として、実態のない短期の賃貸借契約を後から締結するケースがありました。つまり、実際は住宅を借りて住んでいないのに、形式上、賃貸借契約があるように装って競売を邪魔するようなケースがあったわけですね。

 
このように短期賃貸借制度には欠陥があったため今では廃止されており、代わりに賃借人には6カ月の明け渡し猶予が認められることになりました。つまり「住宅を借りて住んでいる人は、競売に対抗して住み続けることはできないけど、6カ月の猶予を上げるから次に住むところを探してね」という仕組みに変更になりました。

また抵当権消滅請求では、滌除のように事前に債権者が競売することを通知する義務はなくなりました。

所有権者でなくても滌除の要求をすることができた

また当時の滌除の制度は、所有権者以外でも地上権者、永小作権者でも利用することができました。

地上権とはその土地を一定期間、借りて使用する権利のことです。これは所有権と比べると取得するハードルが低いことは言うまでもありません。つまり滌除による抵当権解除の要求が今よりも簡単に出来たわけですね。(ただし実務上は、地上権者や永小作権者が、実際に滌除を利用するケースはほとんどありませんでしたが)

この滌除権者ついても改正とともに見直しがされたため、現在の抵当権消滅請求は所有権者しか主張することができなくなりました。

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