個人再生手続きで給料差押えを中止・取り消しする方法

個人再生手続きを開始すると、給料差押えなどの強制執行手続きを一時中止、または取消しにすることが可能になります。給与の差押えを受けてしまうと生活に大きく影響しますし、多重債務者からすると経済的な再建もかなり困難になります。そのため、もし強制執行による給料差押えを受けてしまった場合には、早めに個人再生などの手続きに踏み切ることが重要です。

個人再生で給与差押えを中止できる?!
ねえねえ、先生ー!
個人再生の申立てをすれば、いま給与の差押えを受けている場合でも、それを中止できるって聞いたんだけど、本当なのー?!
給与が差押えられたままだと、困るんだけどー!
本当だね、ただし「申立て」の時点と「開始決定」の時点で少し条件が違う。申立ての時点では、強制執行の中止命令申立書を提出した上で、裁判所が必要と判断した場合は差押えを中止できる。一方、開始決定がされればその時点で当然に差押えは中止される。
なるほどー、申立ての時点でも中止できる可能性はあるし、遅くても開始決定がされれば確実に中止できる、ってことだねー。
もし給与の差押えが中止されたら、その次の給料日から全額の給与が振り込まれることになるのー?
いや、強制執行を中止しただけでは残念ながら、まだ給与の全額は受け取れないんだよね。1/4に相当する給与の差押部分はそのまま職場に留保されることになる。この留保分は、最終的に個人再生の認可決定が確定した後に受け取れることになる。
ええー!>< 給与差押えを中止しても、結局すぐには手取り全額は振り込まれないんだねー・・・、ショック・・・。
でも個人再生の分割予納金の支払いとか、どうしてもその給与が必要な時は、何か良い方法はないのー?
その場合は、強制執行の「中止」だけでなく、「取消し」も必要だね。 強制執行取消しの申立てをして、個人再生の再生手続きのために必要だと裁判所に認められれば、差押えの取消しができる。取消しがされれば、以降の給与全額と中止期間の留保分を受け取れるよ。
  • 給与の差押えは、個人再生の申立てまたは開始決定により中止できる
  • 中止のみでは給与の差押部分は留保され、受け取ることができない
  • 給与差押えの取消しがあった場合には、留保された額の受け取りが可能
  • 再生計画の認可決定が確定すれば、給与差押え手続きは失効する
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個人再生の申立てで給与差押えを中止するには?

消費者金融等の借金の返済が滞ったことで、支払督促、まはた訴訟の判決により、債権者に給与の差押えを受けてしまうことがあります。

しかし個人再生の手続きでは、全ての債権者は平等に扱われなければならないとされており(債権者平等の原則)、各債権者が早い者勝ちのように強制執行等で、個別に自分の権利行使をして回収することは制限されるべき、とされています。

そのため、裁判所に個人再生の申立てがおこなわれた場合、給与の差押え等の強制執行手続きを中止することができます。ただし個人再生の申立てをした時点、手続きの開始決定がされた時点、でそれぞれ条件が異なりますので順に確認しましょう。

個人再生による給与差押えの説明図-申立ての時点と開始決定の時点とで条件が異なる

個人再生の申立てと同時に給与差押えを中止するには?

個人再生の申立てと同時に給与差押えを中止するには、裁判所に強制執行の中止命令の申立てをします。その申立てを受けて、裁判所が必要があると判断した場合には、給与の差押えを中止することができます。

個人再生の申立てと同時に強制執行を中止するには、別途、中止命令の申立てをおこない裁判所が必要と判断することが条件

中止命令の申立て
裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続又は処分の中止を命ずることができる。(民事再生法26条

 
給与債権の差押えの場合には、生活や再生計画、今後の弁済原資に重要な関わりがあります。また26条の但書きにも該当しないと考えられるので、中止命令が認められる可能性は高いです。

もし個人再生を申立てた裁判所により「中止命令」が得られた場合には、今度はその中止命令正本を持って、差押え命令を出している裁判所に「執行停止の申立て」をおこないます。

個人再生を申立てた裁判所と、差押命令を出している裁判所は別なので、中止命令正本を提出して執行停止を申立てる-説明図

民事執行法39条1項(強制執行の停止)では、以下のように定められています。

執行停止の申立て
強制執行は、次に掲げる文書の提出があったときは、停止しなければならない。
1.債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本(民事執行法39条

前述の中止命令の正本はここでいう執行停止文書に当たりますので、これを提出することで給与の差押え手続きを停止することが可能です。

個人再生の開始決定により、給与差押えを中止する方法

前述のように開始決定前(申立ての段階)で個人再生を中止するためには、別途、中止命令申立ての必要があり、さらに「裁判所が必要と判断した場合」という条件が付いていました。

しかし個人再生の開始決定がされると、再生債権に関するすべての強制執行手続きは当然に中止されます。つまり遅くとも開始決定まで待てば、給与の差押えは確実に中止できることになります。

個人再生の開始決定時には、進行中の強制執行(給与差押え)は中止する-説明図

開始決定に伴う中止
再生手続開始の決定があったときは、(略)、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行の申立てはすることができず、手続は中止する。(民事再生法39条1項

ただしこの場合も、個人再生を申し立てている裁判所と、強制執行の命令を出している裁判所は、別ですので、実務上の手続きが必要になります。具体的には、個人再生の開始決定正本を、差押命令を出している裁判所に提出します。

差押えが中止されると、翌月から給与は満額受け取れる?

債権者により給与の強制執行を受けた場合、給与額面から税金や社会保険料を控除した手取額のうち、1/4に相当する額について差押えを受けることになります。

この差押部分については、実は、強制執行を中止しただけでは給付を受けることはできません。中止により債権者への支払いはストップしますが、差押えた額がそのまま貰えるわけではないのです。あくまで強制執行手続きは中止しただけであり、差押えの効力を失ったわけではありません。

給与差押えが中止しても、差押額はそのまま留保される-説明図

では差押えられている給与額はどうなるのかというと、基本的には勤務先の職場にそのまま留保されます。勤務先が差押額を供託している場合には、供託所にてそのまま留保されることになります。「供託」については以下を参考にしてください。

もう一度まとめると、給与の差押え中止後も給与の3/4に相当する額については支給されますが、1/4相当の差押額については、毎月、職場か供託所にストックされ続けます。

再生手続きがすべて完了したら、留保分が支払われる

職場や供託所にストックされた給与差押額が最終的にどうなるのかというと、再生手続きがすべて完了して、裁判所による再生計画の認可決定が確定した後に債務者(従業員)に支払われることになります。

最終的に裁判所に再生計画が認可決定
されれば、中止した差押手続きは失効し、留保された給与が受け取れる-説明図

これは、再生計画の認可決定が確定すると、強制執行等の差押え手続きが失効するからです。

中止した手続等の失効
再生計画認可の決定が確定したときは、第三十九条第一項の規定により中止した手続又は処分は、その効力を失う。(民事再生法184条

 
給与の差押手続きが失効すれば、勤務先から今まで留保されていた差押額分がまとめて支払われます。またそれ以降の給与については、手取額の全額を受け取ることができます。

中止期間に供託所に預けられていた場合には、裁判所による再生計画の認可決定の確定証明書を提出して払渡証明書を貰い、それを供託所に提出して差押えられていた給与を受け取ります。

強制執行の取消しを申立てて差押えを解除する方法

前述のように強制執行を中止しても、再生計画の認可決定を得るまでは差押えられた給与を受け取ることはできません。

ただし、裁判所に「強制執行の取消し」を申立てることで、裁判所の判断により前記で中止した差押え手続きを取消すことが可能です。給与の差押えが取消しになれば、再生計画の認可決定を待たなくても、その時点から給与の満額を受け取ることが可能になり、また留保された給与も全額支給されます。

強制執行の取消しがされると、(1)給与は満額受け取れるようになり、(2)中止以降の留保分も支払いを受けることができる。-説明図

こちらも個人再生の開始決定前なのか、開始決定後なのかで取消しの要件が変わってきますので、順番に確認していきましょう。

個人再生の申立て後(開始決定前)の、差押えの取消し

まず先に断っておくと、個人再生の開始決定前に強制執行の取消しが可能なケースはほとんどありません。
そもそも個人再生が開始できるかどうかもまだ確定していない段階ですから、この状態で差押えの解除が可能なのは、その資金についてよほど緊急性があって重要なケースに限られます。

例えば、事業の継続のために必要な在庫、運転資金等について差押えを受けているような場合は、担保を立てることで強制執行の取消しができる可能性があります。(民事再生法26条3項

ただし一般的な給与債権の差押えにおいて、これに当て嵌まるケースはほぼないでしょうから、基本的には個人再生の開始決定を待つまでは、中止までで我慢することになります。

個人再生の開始決定後の、給与差押えの取消し

個人再生の開始決定後であれば、強制執行の取消し(給与差押えの解除)のハードルも少し低くなります。

個人再生の開始決定後は、まず給与差押えなどの執行手続きは自動的に中止になります。また別途、債務者の申立てがあった場合には、裁判所が「再生計画のために必要と判断すれば」、その差押命令の取消しが可能とされています。

給与差押えの取消命令の申立て-個人再生の開始決定後は、「裁判所が再生のめに必要と認めた場合」、強制執行の取消しが可能-説明図

強制執行の取消命令
裁判所は、(中略)再生のため必要があると認めるときは、再生債務者等の申立てにより又は職権で、担保を立てさせて、又は立てさせないで、中止した再生債権に基づく強制執行等の手続の取消しを命ずることができる。(民事再生法39条2項

 
「再生のため必要があると認めるとき」とは、再生手続きに必要な費用の捻出のために、給料の全額をどうしてもいま受け取らなければならないケースが該当します。例えば、再生計画に必要な分割予納金の支払いのために給料が足りない場合や、弁護士への着手金の支払いのために必要な場合、などが考えられます。

強制執行の取消しが認められれば、その取消決定の正本を、差押命令を発付している裁判所に提出して給与差押えを解除します。これ以降から給与の全額の受け取りが可能になる他、中止されていた期間中に留保された差押額(または供託金)の払渡しを受けることができます。

債権者へ強制執行の”取下げ”をお願いする方法

他にも、差押えをしている債権者を説得して、強制執行手続きを取り下げて貰うという方法もあります。わざわざ強制執行の取消しを申立てなくても、債権者が自ら取り下げてくれれば、当然、差押えは解除され、給与をまた全額受け取ることが可能になります。

弁護士の受任前から既に給与の差押えを受けていた場合には、弁護士の受任通知で「個人再生の準備に入った」ことを伝えて、「開始決定があれば差押えは中止になり、再生計画が確定すれば失効する」旨を説明すれば、取り下げてくれる債権者も多いです。

債権者に差押えの取消しを促すケース-イラスト図

ただし弁護士の受任後に、債権者が強行に訴訟判決を得て給与差押えをしてきた場合には、簡単には取り下げてくれないケースが多いです。特に弁護士が受任してから、実際に個人再生を申立てるまでに時間がかかりすぎた場合等に、債権者が訴訟を起こす場合があります。

このように債権者が取下げに応じない場合には、やはり一刻も早く個人再生の開始決定を得て、給与差押えを中断し、かつ必要があれば「取消しの申立て」をして差押えを解除することが必要です。

給与が差押えられたままだと偏頗弁済になる?!

弁護士の受任後に、個人再生の開始までに特定の債権者だけに返済をおこなってしまうと偏頗弁済という扱いになります。
個人再生手続きでは、このような偏頗弁済は清算価値として、再生計画の最低弁済額に含めなければならない、とされています。(「最低弁済額とは?」)

偏頗弁済の簡易説明図

例えば個人再生の直前に、消費者金融のA社だけに100万円を弁済した場合、他の債権者との公平を図るために、個人再生での返済額も100万円上乗せしなければならないのです。

そして例えば、給与の差押えや天引きのように、積極的に自分から返済してはいない場合でも、これは偏頗弁済にあたる、と解釈されています。

即ち、弁護士・司法書士への個人再生を委任後に、給与差押えにより特定の債権者に取り立てられた金額は、そのまま清算価値に含めて、最低弁済額(個人再生の再生計画で返済しなければならない額)に上乗せする必要があります。

偏頗弁済に該当するケース
(1)給与の差押え ・・・ 消費者金融等による支払督促、訴訟で給与が差押えを受け、勤務先から取立てられた場合
(2)給与の天引き ・・・ 債権者が職場の勤務先や、(公務員の場合の)共済組合等で、借りた分が給与から天引きになる場合

このような場合、個人再生の開始決定前に給与の差押えが長く続けば続くほど、その分、個人再生での弁済総額も膨れ上がってしまいます。返済が大変になるだけでなく、最悪の場合、裁判所から「履行可能性が低い(返済できない)」として不認可事由になってしまう可能性もあります。

弁護士に依頼した段階で(またはその後に)、給与差押えを受けている場合は、少しでも早く個人再生を申立てて給与の差押えを中止することが必要です。

給与差押えで清算価値に上乗せになる金額

では実際に弁護士への委任後に、(個人再生の開始までに)給与差押えで支払った金額は全額、最低弁済額に上乗せしなければならないのでしょうか?

自分では返済する意思はないのに、「勝手に給与を差押えられて、しかも偏頗弁済だと言われて個人再生の弁済額まで増える」というのは、不合理で再生債務者が可哀そうな面があります。

そのため一部の裁判所の運用では、給与差押えにより偏頗弁済が発生した場合には、その額について一定の控除を受けることができるようです。

給与差押えや給与天引きによる偏頗弁済の一部額控除-説明図

例えば、以下の出典サイトの記述によれば、大阪地裁では20万円までは控除を受けることができる、という運用がされているようです。 具体的には、弁護士の受任後、個人再生の申立てまでの3カ月間、6万円ずつ差押えられた場合には、差押えによる取立額の合計は18万円なので、20万円を控除すると、清算価値への上乗せはないことになります。

大阪地裁は、今月の「はい6民ですvol.159」(月刊大阪弁護士会2012年4月号)で、この点について次のような新運用を打ち出しました。

1.債権者による取立て・天引き済みの場合
差押え・天引き額を清算価値に上乗せ。
ただし、20万円の控除を認める

2.第三債務者が供託中または留保中の場合
(1) 開始前供託部分 預貯金と同視(99万円控除可)
(2) 開始後供託部分 清算価値に上乗せせず
(3) 配当された場合 取立済みと同じ

引用:個人再生における給与差押え・天引きと清算価値

 
また、個人再生の開始決定前に差押えにより供託された給与については、最低弁済額の計算上は、現預金と同じ扱いになります。

差押中止後に供託された差押部分の給与については、最終的には、個人再生の開始決定後に債務者に払渡しがされるものですので、再生債務者の財産だと見なされます。そのため、99万円を超える部分については清算価値に含めて最低弁済額を計算することが必要です。

 

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