現役警備員が破産すると今の職や資格・検定はどうなる?

現役の警備員の方が自己破産した場合、理屈上は、破産手続きが開始してから免責許可が下りるまでの数カ月間は、警備員職に従事できません。警備会社にバレれば解雇される可能性もあります。警備会社によっては官報で破産者情報をチェックしているため、それが原因でバレる可能性もあります。ただし数カ月の間だけなので自分から言わなければバレない場合も多いです。

現役の警備員の自己破産について
ねえねえ、先生ー!
前回の記事で、破産手続き中の人が新しく警備会社に就職するのは難しいって言ってたけど…。すでに警備会社で働いてる現役の警備員の人が自己破産する場合はどうなの?
※ 破産中の警備会社への就職・面接については、こちらの記事 を参考にしてね。
うーん。
もちろん、法律上は一時的にでも破産者になるわけだから、その期間中は警備員の仕事に就くべきではない。自分から警備会社に報告してもいいと思う。でも実際には申告してない人が多いだろうね。
えーっと…、それはつまり、自分から申告しなければ、警備会社にはバレないってこと? 例えば、自己破産の開始決定が出たときに、裁判所から警備会社に通知がいったりすることはないの?
裁判所から通知が行くことはないよ。
ただし、警備会社によっては官報(※)の破産者情報をチェックしてる場合もあるから、当然、バレる可能性はある。逆にいえば、官報を見てなければ普通はバレないけどね。

警備会社が官報で破産者の情報をチェックしてれば、破産開始決定を受けたことはバレる-説明イラスト

そうなんだ…。
じゃあ、警備員の資格や検定はどうなるの? 仕事の幅を広げたくて、「施設警備検定1級」と「警備員教育指導責任者資格」を取ったんだけど…。これも没収になっちゃうのかな?
うーん、それも微妙なとこだね。
警備業法22条・23条では、もし警備員の資格や検定の保持者が自己破産した場合、「公安委員会が資格者証(または合格証明書)の返納を命じることができる」と定められている。
ん、ちょっと待って。
「返納を命じることができる」なんだ。それって前にも習ったけど、任意規定ってことだよね。「返納を命じなければならない」とは書いてないもんね。
そうだね。だから実際に返納を命じられるかどうかはわからないね。特に個人破産はそんなに悪質性もないし欠格期間も短いから、返納までは命じられない気もするけど。心配なら、個人再生か任意整理にしておいた方がいいと思う。
【 補足 】

警備業法14条では、「破産者で復権を得ないものは警備員となってはならない」と定められています。「破産者で復権を得ないもの」に該当する期間は、破産開始決定~免責許可までの数カ月だけなので、実際にはバレずに働き続ける方も多いです。ですが、警備会社が官報をチェックしていればバレますし、就業規則によっては解雇される可能性もあります。絶対に解雇は困るという方は、自己破産ではなく、他の債務整理の手続きを選びましょう。

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  • 警備会社が官報をチェックしていれば、自己破産した事実は会社にバレる
  • 警備業務検定や指導教育責任者資格などは、返納を求められる可能性がある
  • 自己破産でなく、任意整理・個人再生の手続きなら法律上は全く問題ない
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自己破産の手続き中も警備員として働くことはできる?

破産手続きの開始決定を受けてから、免責許可を得るまでの数カ月間は、法律上は「破産者」という扱いになります。そのため、すでに警備会社に就職して警備員として働いている方でも、破産手続き中は、警備員の仕事を続けることができません。

法律でそう決まっている以上、本来はバレる・バレないにかかわらず、警備員の仕事に就くべきではありません。警備会社には自分から報告するか、あるいは理由を言わずに1度退職し、破産手続きで免責許可を得てから別の警備会社などに再就職するべきでしょう。

本当は破産手続き中は休職・退職して手続きが終わってから復帰するのが望ましいが...-イラスト

黙って警備員の仕事に就いていると、後で会社に迷惑をかける可能性もあります。ここまでが正しい意見としては、まず前提になります。

実際には警備員として仕事を続けている方も多い

ただし実際には、警備員の全員が自分から正直に「自己破産します」と申告するわけではないでしょう。警察庁の統計によると、平成28年12月末時点で全国には54万3000人もの警備員が現役で働いています。

これだけの人数がいると、全ての人が善意で自己申告すると信じるのは、制度の設計として無理があります。もし警備員本人が自己申告をすべきなのであれば、そう法律で定められているはずです。ですが、警備業法にはそのような報告の義務は定められていません。

例えば、同じく自己破産の職業制限として有名な弁理士や司法書士のような士業の場合、単に法律で欠格事由として定められているだけではなく、「破産した場合は所属の弁理士会・司法書士会に届出をすること」という報告義務までセットで定められています。

破産者などの欠格事由に該当することになった場合の法律上の報告義務-説明イラスト

参考記事
自己破産で資格制限を受ける職業の一覧

 
一方、警備員の場合は、警備業法にも内閣府の施行規則や運用解釈の例規にもそのような記載はありません。敢えてそのような報告の義務を明文化していないということは、制度の設計として本人に自己申告を求めているわけではない、と考えることもできます。

警備会社側にチェックの義務はあるの?

警備会社に対しては、破産者などの欠格者を警備員として雇わないように注意をし、私人に認められる権限の範囲でしっかり調査をすることが法律や施行規則で義務付けられています。

例えば、以下の記事でも説明したように、警備会社の入社時には「破産者ではありません」という誓約書や、役所の身分証明書 を提出させられます。これにより破産者かどうかをチェックすることが警備業法施行規則で義務付けられているのです。

参考記事
自己破産をすると警備員の仕事は資格制限でつけない?

 
このように法律や規則で定められていることに関しては、警備会社は敏感です。ちゃんと法令を遵守していなければ、警備会社の過失と判断され、公安委員会の立ち入り検査などで営業停止処分になる可能性もあるからです。

チェックが厳しいかどうかは、法律や規則でどう定められてるかに関係する-イラスト

一方、既に入社している警備員に対して、定期的に「破産者でないこと」を確認するような追加書類を提出させろ、という法律はありません。6カ月に1度、現任研修という研修を実施しなければならないという規則はあります(施行規則38条)が、その際にあらためて身分証明書の提出などが求められることはありません。

後述するように、警備会社によっては官報 をチェックしていて、従業員が破産者に該当しないかどうかを自主的に確認している場合もあります。しかしこれも法令で確認が義務付けられているわけではありません。

警備会社が官報をチェックしている可能性はあり

裁判所から自己破産の開始決定を受けた場合、その者の氏名と住所は、官報 という国の機関誌で一般公開(告知)されます。銀行などの金融機関や保険会社、警備会社などはこれらの官報の破産者情報をチェックしている可能性があります。

実際に私が知っている警備会社も、官報で従業員の破産者情報をチェックしているそうです。いまは、官報をデータベース化して簡単に検索できるようにした民間の有料サービスもあるので、官報で破産者の情報を集めるのはそれほど難しくありません。官報から破産の事実が警備会社にバレる可能性はあるでしょう。

ただし、前述のように官報チェックは法律で義務付けられているわけではありません。全国には約9500社もの警備業者があり(平成28年12月時点)、これら全ての業者が自主的に官報チェックをしているとは考えにくいです。実際には自己破産してもバレないケースは相当数あるでしょう。

この辺りの厳しさは、警備会社の規模や業務内容にもよると思います。

警備員の業務検定や指導教育責任者資格はどうなる?

警備員の仕事を長くやっている方の中には、スキルアップのために警備員の業務検定や、警備員指導教育責任者資格を保有している方(または受験しようと思ってる方)もいるでしょう。

警備業務には法律上の配置義務があるため、例えば、空港の施設警備をするには施設警備検定合格者の配置が必要になります。高速道路の交通誘導をするには、交通警備検定の合格者が必要です。また、そもそも警備会社は、各営業所ごとに警備員指導教育責任者を1人以上置く義務があります。

施設警備や交通誘導警備の検定合格警備員の配置義務-イラスト

そのため、検定合格者や指導教育責任者は、特に警備員の仕事において需要があります。
では、これらの資格・検定保有者が自己破産するとどうなるのでしょうか?

検定合格の前・資格取得の前に自己破産した場合

警備業法では、「公安委員会は破産者(欠格者)に対して、指導教育責任者の資格証(または警備業務検定の合格証明書)の交付を行わない」と定められています。そのため、検定の合格前・資格の取得前に破産者となった場合は、これらの資格者証・合格証明書を受け取ることができません。

以下がその条文です。

【 警備業法22条 】

(警備員指導教育責任者)
4項 公安委員会は、次の各号のいずれかに該当する者に対しては、警備員指導教育責任者資格者証の交付を行わない。
 1.未成年者
 2.第3条第1号から6号のいずれかに該当するもの
 (ここに「破産者で復権を得ない者」が含まれる)

【 警備業法23条 】

(検定)
5項 前条第4項から6項までの規定は合格証明書の交付、書換えおよび再交付について、(中略)準用する。

上記のように、検定についての条文(23条)は、警備員指導教育責任者についての条文(22条)をそのまま準用する、という構成になっています。

なお、破産手続きの期間中でも、検定を受けること自体は可能です。欠格者に該当する間は合格証明書を受け取ることはできませんが、代わりに成績証明書が交付されます。この成績証明書があれば、1年以内であれば合格証明書と交換することができます。免責許可を得て復権 してから合格証明書を受け取れば全く問題ありません。

すでに合格・資格取得している者が自己破産した場合

警備業法では、「公安委員会は、警備員指導者教育責任者(または検定合格者)が破産者に該当する場合、資格者証(または合格証明書)の返納を命じることができる」と定められています。

そのため、既に資格を取得していたり検定に合格している方は、公安委員会に「証書を返納しろ」と言われた場合は、返納しなければなりません。

【 警備業法22条 】

7項 公安委員会は、警備員指導教育責任者資格者証の交付を受けた者が、次の各号のいずれかに該当すると認めたときは、内閣府令で定めるところにより、その警備員指導教育責任者資格者証の返納を命ずることができる。
 1.第3条1号から6号までのいずれかに該当するとき
 (ここに「破産者で復権を得ない者」が含まれる)

【 警備業法23条 】

(検定)
5項 前条第7項の規定は、合格証明書の交付を受けた者について準用する。(略)「警備員指導教育責任者資格者証の返納」とあるのは「合格証明書の返納」と、(略)、「警備員指導教育責任者」とあるのは「警備員」と読み替えるものとする。

内閣府令はこちら(※クリックタップで開閉)

もし実際に返納を命じられた場合は、公安委員会から、返納の理由が記載された「返納命令書」が届けられます。この返納命令書が届いたら、交付日から10日以内に資格者証(または合格証明書)を返納しなければなりません。

ただし条文では「命ずることができる」と規定されているため、実際に返納を命じられるかどうかは、公安委員会の判断に委ねられます。これは他の職業の資格制限の条文に比べると緩い基準です。実際には返納を命じられないケースも多いと思います。

例えば、弁護士・公認会計士・税理士などの士業の場合は、破産者(欠格事由)に該当することになった時点で、「登録を抹消しなければならない」と規定されています。このように厳しい文言の条文も多いのですが、警備業法に関しては「~できる」というやや緩い規定となっています。
 

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