交通事故の被害者が自己破産すると損害賠償はどうなる?

自己破産の開始より後に交通事故に遭った場合は、加害者からの損害賠償はすべて自由財産 として手元に残すことができます。しかし自己破産の開始より前に交通事故に遭ってしまった場合には、損害賠償請求権の一部は、破産財団 として没収され、債権者への配当に充てられてしまう可能性があります。今回は、交通事故の被害者の自己破産について解説します。

この記事「 加害者が自己破産するとどうなる? 」もあわせて参考にしてね。
交通事故の被害者が自己破産するとどうなる?
ねえねえ、先生ー!
夫が弁護士に自己破産の手続きをお願いしてて、まだ開始決定前なんだけど…、ちょうど先日、交通事故に遭っちゃって。過失割合は9:1で夫は被害者なんだけど、損害賠償は貰えるのかな?
うーん、物損事故か人身事故かによるね。
物損事故の場合は、車の修理代などの損害賠償請求権は、自己破産で没収されて債権者への配当に回される。もともと交通事故に遭わなかったとしても、車は没収されていたはずだからね。
なるほど…、
修理するにしても、廃車で全損になるにしても、損害賠償は元々の車が価値を変えたものに過ぎないもんね。でも今回は、人身事故なの。
しかも夫はむち打ちで、会社を休んで通院までしてるの。
であれば、自己破産で没収されるかは損害賠償の内容によるね。
例えば、治療費なんかは受け取って大丈夫相手が任意保険に加入してる場合は、一括対応といって、相手の保険会社が直接、病院に治療費を支払ってくれる場合が多いしね。
ふむふむ…。
じゃあ相手の保険会社から直接、病院に治療費を支払って貰っても、自己破産の開始後に「返してくれ」とか言われる心配はないのね。
通院とかで会社を休んだ分の損害賠償はどうなるの?
休業損害の分だね。これは没収の可能性がある。
もし事故に遭ってなかったら、働いて給与として受け取っていたお金のうち、自己破産時に余っていた分は没収されていたはずだからね。
ただし自由財産の拡張(※)が認められれば、手元に残せるよ。
自由財産の拡張っていうのは、裁判所の判断で「処分しない財産」の範囲を広げて貰う手続きのことだよねー? たしか預金とか生命保険とか、古い車の所持とかが、追加の自由財産として認められる可能性があるって聞いたけど。
※ 自由財産の拡張については『 現金だけじゃない?!自由財産の拡張が認められるもの』を参照してね。
そうだね。破産法では「破産者の生活状況、財産の種類や金額、今後の収入見込み、その他の事情を考慮して自由財産の範囲を拡張できる」と定められている。だから交通事故の損害賠償についても、自由財産の拡張が認められる可能性は十分あるんだ。
そうなんだ…。
じゃあ、慰謝料はどうなのー? 交通事故の慰謝料は、治療費や休業損害みたいな実際の損害の補填じゃなくて、精神的な苦痛に対して支払われるものでしょ? これは自己破産で没収されない?
慰謝料の請求権は、少し特殊だね。
難しい言葉で「行使上の一身専属権」というんだけど、金額が確定するまでは、他人に譲ったり差押えたりできない権利なんだ。だから金額が確定していなければ、自己破産でも没収されない。
ちょっと難しいな…。
つまり、自己破産の開始前に交通事故に遭っても、まだ示談が成立していなければ、慰謝料請求権は没収されないってことだよね?
じゃあ、もし自己破産の終結前に示談が成立してたらどうなるの?
その場合は没収される。
自己破産の手続きが終わる前に、慰謝料の金額が確定した場合には、慰謝料請求権は一身専属性がなくなっちゃうんだ。ただしその場合でも、自由財産の拡張が認められる可能性はあるけどね。
【補足】

交通事故に遭った被害者は、相手に治療費や通院費、会社を休んだ分の休業損害、さらに後遺障害が残った場合には、将来の逸失利益や慰謝料を請求できます。しかし、これらが自己破産後に手元に残せるかどうかは、被害者の生活状況、損害賠償の金額、示談の時期など、さまざまな要素に左右されます。早めに弁護士に相談しましょう。

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  • 交通事故の損害賠償請求権は、事故の発生と同時に履行期が到来する
  • そのため理屈上は、自己破産前の交通事故の損害賠償請求権は破産財団になる
  • しかし交通事故の賠償には、傷害の治療や将来に渡る損害の補填分も含まれる
  • 被害者救済の趣旨から、相当部分については自由財産の拡張が認められるべき
  • 慰謝料請求権は、金額が確定するまでは自己破産の処分対象にならない
自己破産できるかどうか、他の方法で借金が減らせるか診断してみよう

交通事故の被害者が請求できる損害賠償の内容まとめ

交通事故の被害者になってしまった場合、加害者に請求できる損害賠償の内容は多岐にわたります。
最初に交通事故の基礎知識について簡単にまとめます。既に理解している方は こちら から読み飛ばしてください。

損害賠償請求の内容

費目 内容 請求時期
治療費 病院に入院・通院することで必要になった治療費、病院まで往復する際の交通費、付添看護費などの実費 加害者が任意保険に加入しており、その保険会社が一括対応サービスを行っていれば、治療費は相手の保険会社から病院に直接支払われる。
もし相手の保険会社が支払ってくれない場合は、被害者が立替えて治療費を支払い、治療後の示談交渉でまとめて請求する。
休業損害 病院に入院・通院することになったせいで、仕事を休まざるをえなくなった場合に、その分の給与の補填を請求できる 治療後の示談交渉でまとめて請求する。
ただし通勤や勤務中の交通事故で、労災保険が下りた場合には、休業4日目から1カ月ごとに労災保険の「休業補償給付」が受け取れる。
入通院
慰謝料
交通事故の被害に遭ったせいで、病院に入院・通院せざるをえなくなり、身体的にも不自由になることで、仕事やプライベートなどで様々な心理的な苦労を被ることになる。その精神的苦痛に対する慰謝料。 治療後の示談交渉でまとめて請求する
後遺障害の
逸失利益
およそ半年程度の治療期間を経ても完治せず、症状が固定した場合(=これ以上治療しても改善の見込みがない場合)に、後遺障害が認定される。その後遺障害の程度によって将来の仕事や収入に影響がでる場合は、将来の損失分を請求できる 治療を続けても完治せず、主治医が症状固定の診断をしたら、損害保険料率算出機構に後遺障害等級認定の申請をする。その後、相手と示談交渉をして請求する。
後遺障害の
慰謝料
症状が固定して後遺障害が認定された場合には、後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛として、(入通院慰謝料とは別で)さらに慰謝料を請求できる 治療後、主治医が症状固定の診断をしたら、後遺障害等級認定の申請をする。その後、後遺障害の等級をもとに示談交渉をして請求する。
将来の
介護料
後遺障害が残り、その程度によって将来的にも介護を必要とする場合には、その将来の介護料を請求できる 治療後、主治医が症状固定の診断をしたら、後遺障害等級認定の申請をする。その後、示談交渉をして請求する。
車両の修理
・物損
修理で直せる場合には、修理代が損害賠償額になる。修理が不可能、または修理代が車の評価額を超えてしまう場合(いわゆる全損の場合)には、その車(物)の評価額が損害賠償額になる。 物損事故だけの場合には、事故後すぐに請求できる。人身事故とセットの場合には、治療後の示談交渉でまとめて請求することが多い。

治療費
内容 病院に入院・通院することで必要になった治療費、病院まで往復する際の交通費、付添看護費などの実費
請求
時期
加害者が任意保険に加入しており、その保険会社が一括対応サービスを行っていれば、治療費は相手の保険会社から病院に直接支払われる。
もし相手の保険会社が支払ってくれない場合は、被害者が立替えて治療費を支払い、治療後の示談交渉でまとめて請求する。
休業損害
内容 病院に入院・通院することになったせいで、仕事を休まざるをえなくなった場合に、その分の給与の補填を請求できる
請求
時期
治療後の示談交渉でまとめて請求する。
ただし通勤や勤務中の交通事故で、労災保険が下りた場合には、休業4日目から1カ月ごとに労災保険の「休業補償給付」が受け取れる。
入通院慰謝料
内容 交通事故の被害に遭ったせいで、病院に入院・通院せざるをえなくなり、身体的にも不自由になることで、仕事やプライベートなどで様々な心理的な苦労を被ることになる。その精神的苦痛に対する慰謝料。
請求
時期
治療後の示談交渉でまとめて請求する
後遺障害の逸失利益
内容 およそ半年程度の治療期間を経ても完治せず、症状が固定した場合(=これ以上治療しても改善の見込みがない場合)に、後遺障害が認定される。その後遺障害の程度によって将来の仕事や収入に影響がでる場合は、将来の損失分を請求できる
請求
時期
治療を続けても完治せず、主治医が症状固定の診断をしたら、損害保険料率算出機構に後遺障害等級認定の申請をする。その後、相手と示談交渉をして請求する。
後遺障害の慰謝料
内容 症状が固定して後遺障害が認定された場合には、後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛として、(入通院慰謝料とは別で)さらに慰謝料を請求できる
請求
時期
治療後、主治医が症状固定の診断をしたら、後遺障害等級認定の申請をする。その後、後遺障害の等級をもとに示談交渉をして請求する。
将来の介護料
内容 後遺障害が残り、その程度によって将来的にも介護を必要とする場合には、その将来の介護料を請求できる
請求
時期
治療後、主治医が症状固定の診断をしたら、後遺障害等級認定の申請をする。その後、示談交渉をして請求する。
車両の修理・物損
内容 修理で直せる場合には、修理代が損害賠償額になる。修理が不可能、または修理代が車の評価額を超えてしまう場合(いわゆる全損の場合)には、その車(物)の評価額が損害賠償額になる。
請求
時期
物損事故だけの場合には、事故後すぐに請求できる。人身事故とセットの場合には、治療後の示談交渉でまとめて請求することが多い。

 
基本的に交通事故による損害額は、治療がすべて終わった後でないと判明しません。
示談交渉は治療が終わってから開始するのが原則です。

そのため、病院での治療を伴う人身事故の場合には、交通事故の発生から示談交渉の開始までに4~6カ月以上かかることも多いです。さらに後遺障害の認定の申請をしたり、裁判で争って損害賠償額を確定させる場合には、全部で1年以上かかることもあります。

以下、示談交渉までの流れを簡単に図にしておきます。

交通事故の被害に遭ってから損害賠償請求額が確定するまでの流れの図-教えて!債務整理

交通事故の損害賠償額の計算方法

交通事故の損害賠償の中でも金額が大きいのは、治療費、慰謝料、休業損害、そして(後遺障害が残った場合の)将来の逸失利益です。

治療費や交通費はそのまま実費で請求します。
休業損害や将来の逸失利益は、現在の平均収入に、休んだ期間や将来の就労可能期間を掛けて計算します。そのため、被害者の現在の収入によって損害額が変わります。

慰謝料の金額は、最初からある程度の相場が決まっています。

入通院慰謝料は「入院期間」「通院期間」をもとにほぼ定型的に決まっていますし、
後遺障害慰謝料も、認定された後遺障害の等級に応じてほぼ定型的に決まっています。

以下、計算するために必要なリンクを掲載しておきます。参考にしてください。

交通事故の損害賠償額の算定リンクまとめ

  • 後遺障害慰謝料の相場(青本基準)

http://www.matsui-sr.com/gousei/ao.htm

  • 入通院慰謝料の相場(赤本基準)

http://www.matsui-sr.com/gousei/jiko-r2-4.htm

  • 後遺障害の等級表と労働能力喪失率

http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/law2afteref.html

  • 後遺障害の逸失利益の計算機

http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/law2trafficj.html

またいずれの賠償も、被害者側にも過失がある場合には、過失割合に応じて減額されます。
例えば、交通事故で1000万円の損害が発生し、被害者の過失が3割であれば、相手に請求できるのは700万円までです。

加害者の保険会社以外から保険金を受け取る場合

交通事故の被害者が、最終的に相手から賠償を受けられるのは、示談交渉が終わった後です。
しかしそれまで全く入金がないとなると、現実的には、事故で働けなくなり収入も途絶えてしまった被害者は、生活に困窮してしまいます。

前述のように病院の治療費だけは、加害者が任意保険に加入していて、かつその任意保険に「一括対応」のサービスが付いていれば、随時、相手の保険会社から病院に直接支払われます。

病院の治療費だけは、先に相手の任意保険会社が直接、病院に支払ってくれることが多い-説明イラスト

しかし、相手が示談の成立前に治療費を支払うことは、義務ではありません。
ですので、相手が任意保険に加入していなかったり、相手が加入している保険が「一括対応」のサービスを行っていない場合には、治療費は自分で立替て支払い、治療後にまとめて請求する必要があります。

一括対応がない場合、示談交渉の時点でまとめて請求するので、通院期間中は被害者が自腹で治療費を負担しなければならない―説明イラスト

このように加害者に対しては、治療がすべて終わり示談が成立するまで、原則としてお金を請求することができません。しかし最終的な賠償額が確定する前でも、以下のような保険から先に補償を受けられる可能性はあります。

加害者の任意保険以外の保険金

保険の種類 内容
自賠責保険 自賠責保険は、法律で加入が義務付けられている保険です。
この自賠責保険には「仮渡金制度」があります。そのため、被害者がすぐに治療費やその他の費用を必要とする場合には、自賠責保険の保険会社から(傷害事故の場合で)5万円~40万円の仮渡金を受け取ることができます。

また被害者が治療費などを支出した場合には、最終的な総損害額が確定する前であっても、その都度、(限度額の範囲内で)自賠責保険の保険会社に保険金を請求できます。

人身傷害保険 一般的に交通事故に遭った場合、被害者は相手(加害者)が加入している任意保険の「対人賠償責任保険」をアテにします。しかし、被害者側が自分でも「人身傷害保険」という任意保険に加入している場合には、自身の保険会社から先に賠償を受けて、その後の示談交渉は保険会社同士に任せることもできます。

この場合、加害者との示談成立まで待つ必要はありません。

また「人身傷害保険」は、加害者が任意保険に加入していない場合や、被害者側の過失が大きい場合にも有効です。例えば、6:4で被害者側に過失がある場合、本来、治療費の4割は被害者が自分で負担しなければなりません。しかし人身傷害保険に加入していれば、被害者の過失割合に関係なく治療費全額分の保険金が支給されます。

労災保険 通勤中や勤務中の交通事故の場合には、労災保険が適用されます。
そのため、会社を休んだ分の給与額の80%相当を「休業補償給付」として受け取ることができます。事故後4日目以降の分から請求できるので、示談成立まで待つ必要がありません。

過去3カ月間の平均給与から算出した「給付基礎日額」(1日辺りの平均収入)を基準に、そのうち6割を休業補償給付として、2割を休業特別支給金として、受け取ることができます。休業補償給付を受け取った分は、後で相手の保険会社に請求する「休業損害」から差し引かれます。

自賠責保険
自賠責保険は、法律で加入が義務付けられている保険です。
この自賠責保険には「仮渡金制度」があります。そのため、被害者がすぐに治療費やその他の費用を必要とする場合には、自賠責保険の保険会社から(傷害事故の場合で)5万円~40万円の仮渡金を受け取ることができます。

また被害者が治療費などを支出した場合には、最終的な総損害額が確定する前であっても、その都度、(限度額の範囲内で)自賠責保険の保険会社に保険金を請求できます。

人身傷害保険
一般的に交通事故に遭った場合、被害者は相手(加害者)が加入している任意保険の「対人賠償責任保険」をアテにします。しかし、被害者側が自分でも「人身傷害保険」という任意保険に加入している場合には、自身の保険会社から先に賠償を受けて、その後の示談交渉は保険会社同士に任せることもできます。

この場合、加害者との示談成立まで待つ必要はありません。

また「人身傷害保険」は、加害者が任意保険に加入していない場合や、被害者側の過失が大きい場合にも有効です。例えば、6:4で被害者側に過失がある場合、本来、治療費の4割は被害者が自分で負担しなければなりません。しかし人身傷害保険に加入していれば、被害者の過失割合に関係なく治療費全額分の保険金が支給されます。

労災保険
通勤中や勤務中の交通事故の場合には、労災保険が適用されます。
そのため、会社を休んだ分の給与額の80%相当を「休業補償給付」として受け取ることができます。事故後4日目以降の分から請求できるので、示談成立まで待つ必要がありません。

過去3カ月間の平均給与から算出した「給付基礎日額」(1日辺りの平均収入)を基準に、そのうち6割を休業補償給付として、2割を休業特別支給金として、受け取ることができます。休業補償給付を受け取った分は、後で相手の保険会社に請求する「休業損害」から差し引かれます。

 
このように一口に「交通事故の損害賠償請求権」といっても、現実には、さまざまな保険会社から、色々な内容の賠償金や保険金を、それぞれ異なるタイミングで受け取る可能性があります。

自賠責保険の仮渡金、人身傷害保険、労災保険など、示談成立前でも、他の保険から先に損害の補填を受けられる可能性がある―説明イラスト

そのため、被害者にとっては「どの時点で自己破産するか?」も1つ重要なポイントです。

交通事故の損害賠償のうち、自己破産で没収されないもの

自己破産の開始決定前に交通事故に遭った場合、被害者の損害賠償請求権は、破産財団 として債権者への配当に充てられてるのか、それとも自由財産として破産者の手元に残せるのか、が問題になります。

以下、それぞれの損害賠償請求の項目ごとに、自己破産での扱いをまとめました。

自己破産での扱い

請求権 自己破産での扱い
治療費 相手の保険会社から直接、病院に支払われた場合には、特に否認などの問題になることはありません。自分で立替えて支払った場合でも、相手への治療費の請求権は、身体や生命の維持回復のために必要な費用なので、原則として自由財産の拡張が認められます。
休業損害 休業損害は、会社を休んだ分の給与の補填が目的なので、性質としては給与と同じです。そのため、自己破産の開始決定前の分の休業損害は、原則として破産財団になります。
ただし状況によっては、一部、自由財産の拡張が認められる可能性はあります。
労災の
休業補償
労災保険による「休業補償給付」は、労働者災害補償保険法という法律の12条の5で差し押えが禁止されています。そのため、破産開始決定時点でまだ受け取っていない休業補償給付の請求権は、破産手続きでは没収されません。ただし既に請求して預金になっている場合は、預金として没収される可能性はあります。
慰謝料
(確定前)
慰謝料には、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」の2種類があります。
いずれの場合も、慰謝料は、被害者に「行使上の一身専属権」があります。つまり被害者にしか行使できない権利であり、差押禁止財産です。そのため、自己破産の手続きが終わるまでに金額が確定しない限り、慰謝料請求権は没収されません。
慰謝料
(確定後)
慰謝料請求権は一身専属上の権利であり、行使するかどうかは被害者に委ねられます。
しかし一度、被害者が慰謝料請求権を行使して請求額が確定した場合には、ただの「金銭債権」になってしまいます。そのため、自己破産の手続きが終わるまでに慰謝料の金額が確定した場合は、慰謝料請求権は自己破産の処分対象になります。
ただしその場合でも、自由財産の拡張が認められる可能性はあります。
後遺障害の
逸失利益
本来、自己破産の開始決定後に破産者が入手した財産は、すべて新得財産 として破産者の自由財産になるはずです。そこから考えると、「後遺障害が残ったことで被る将来に渡っての労働収入の損失分(=後遺障害の逸失利益)」は、自由財産に近い性質を有していることになります。
しかし自己破産前に請求権が存在している以上、理屈上は破産財団になってしまいます。そのため、総合的な事情やバランスを考慮して、自由財産の拡張が認められることになります。
将来の介護料 基本的には上記と同じです。
杓子定規に考えれば、自己破産の開始決定前に存在する債権なので、破産財団として処分対象になります。しかし性質的には、将来のために必要となる介護料ですから、破産者の生活状況やその他の事情を考慮して、自由財産の拡張が認められる可能性が高いです。
車両の修理代 交通事故で車や物を損傷させられて、修理代を相手に請求できる場合でも、その請求権は自己破産の処分対象になります。どっちみち、破産者の車(物)などの財産は、自己破産の開始決定によって破産財団を構成する(没収される)はずのものだからです。

治療費
相手の保険会社から直接、病院に支払われた場合には、特に否認などの問題になることはありません。自分で立替えて支払った場合でも、相手への治療費の請求権は、身体や生命の維持回復のために必要な費用なので、原則として自由財産の拡張が認められます。
休業損害
休業損害は、会社を休んだ分の給与の補填が目的なので、性質としては給与と同じです。そのため、自己破産の開始決定前の分の休業損害は、原則として破産財団になります。
ただし状況によっては、一部、自由財産の拡張が認められる可能性はあります。
労災の休業補償
労災保険による「休業補償給付」は、労働者災害補償保険法という法律の12条の5で差し押えが禁止されています。そのため、破産開始決定時点でまだ受け取っていない休業補償給付の請求権は、破産手続きでは没収されません。ただし既に請求して預金になっている場合は、預金として没収される可能性はあります。
慰謝料(金額の確定前)
慰謝料には、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」の2種類があります。
いずれの場合も、慰謝料は、被害者に「行使上の一身専属権」があります。つまり被害者にしか行使できない権利であり、差押禁止財産です。そのため、自己破産の手続きが終わるまでに金額が確定しない限り、慰謝料請求権は没収されません。
慰謝料(金額の確定後)
慰謝料請求権は一身専属上の権利であり、行使するかどうかは被害者に委ねられます。
しかし一度、被害者が慰謝料請求権を行使して請求額が確定した場合には、ただの「金銭債権」になってしまいます。そのため、自己破産の手続きが終わるまでに慰謝料の金額が確定した場合は、慰謝料請求権は自己破産の処分対象になります。
ただしその場合でも、自由財産の拡張が認められる可能性はあります。
後遺障害の逸失利益
本来、自己破産の開始決定後に破産者が入手した財産は、すべて新得財産 として破産者の自由財産になるはずです。そこから考えると、「後遺障害が残ったことで被る将来に渡っての労働収入の損失分(=後遺障害の逸失利益)」は、自由財産に近い性質を有していることになります。
しかし自己破産前に請求権が存在している以上、理屈上は破産財団になってしまいます。そのため、総合的な事情やバランスを考慮して、自由財産の拡張が認められることになります。
将来の介護料
基本的には上記と同じです。
杓子定規に考えれば、自己破産の開始決定前に存在する債権なので、破産財団として処分対象になります。しかし性質的には、将来のために必要となる介護料ですから、破産者の生活状況やその他の事情を考慮して、自由財産の拡張が認められる可能性が高いです。
車両の修理代
交通事故で車や物を損傷させられて、修理代を相手に請求できる場合でも、その請求権は自己破産の処分対象になります。どっちみち、破産者の車(物)などの財産は、自己破産の開始決定によって破産財団を構成する(没収される)はずのものだからです。

 
以上、まずは概要だけを簡単に説明しました。
「自由財産の拡張」の話と、「慰謝料請求権の一身専属性」の話は、上記だけだとわかりにくいと思いますので、これからもう少し掘り下げて説明します。

なお、ここで問題になっているのは、まだ受け取っていない損害賠償請求権(債権)の話です。
すでに受け取っていて、破産開始決定の時点で現金や預金になっている場合は、それは「現金」「預金」として扱われます。
交通事故などの事情は原則、関係ありません。

理屈的には、損害賠償請求権は破産財団になってしまう

まずはもう一度、原理原則論を確認しましょう。

本来、破産手続きの開始決定時に存在する破産者のすべての財産は、破産財団を構成します。
そのため、財産の管理処分権は破産管財人 に委ねられ、財産は債権者への配当に回されます。
これを固定主義といいます。

自己破産の固定主義の説明イラスト-開始決定時を基準にして、破産財団の範囲を固定する

根拠:破産法34条(※クリックタップで開閉)

さらに交通事故による損害賠償請求権は、その内容(治療費、休業損害、慰謝料、etc)にかかわらず、まとめて1つの損害賠償請求権となり、交通事故の発生と同時に履行期が到来します。

つまり被害者から催告をしなくても、交通事故が発生した時点で直ちに支払義務が生じ、
加害者は示談が成立するまでの間、支払いが遅れている(履行遅滞)状態、という扱いになります。

交通事故の損害賠償請求債務は、事故発生の時点から履行遅滞になる―説明図

根拠:最高裁判例(※クリックタップで開閉)

この考え方を適用すると、たとえ自己破産の開始決定の1日前に交通事故に遭った場合でも、「自己破産前の原因によって生じている債権(=つまり破産開始決定前に存在する財産)」ということになりますので、損害賠償請求権はすべて破産財団に帰属することになります。

交通事故の損害賠償請求権は、事故発生の時点から、
債権が履行期になるため、理屈的には破産財団になる―説明イラスト

バランスを取るために自由財産の拡張が認められる

しかし損害賠償請求の項目の中には、本来は、自由財産として扱われるべきものもあります。
例えば、「後遺障害による将来の逸失利益」がそうです。

後遺障害による逸失利益は、今後一生に渡って被る不利益や損害の補填を先にまとめて損害賠償として受け取る、という性質があります。つまり実質的には、「自己破産の開始決定後の収入分」もそこに含まれているのです。

後遺障害が残ることで、将来の(67歳までの)就労可能期間に渡ってずっと損害を被る-後遺障害の逸失利益の説明イラスト

自己破産の開始決定後に得た収入は、本来は、新得財産 として、破産者の自由財産になります。

ところが、それが「交通事故の損害賠償請求権」となって破産開始決定前に成立してしまったばかりに、破産手続きで没収されてしまうのであれば、通常の破産者と比べてバランス(公平性)を失することになります。

そこで一部の裁判所では、被害者の損害賠償請求権を「破産開始決定前の分」と「破産開始決定後の分」に区分して、休業損害や将来の逸失利益など「破産開始決定後の損害を補填する分」については自由財産の拡張 を認める、という運用が行われています。

【 自由財産の拡張 】

裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
破産法34条4項

要するに、裁判所は裁量で「破産者の生活や収入、その他の事情を考慮して自由財産の範囲を広げてあげる」ことができるわけですね。

破産開始決定より先の、将来の損失
の賠償については、自由財産の拡張が認められる可能性がある-説明イラスト

もちろん、何でもかんでも自由財産の拡張を認めると、破産手続きの意味がありません。
そのため、本来、自由財産の拡張が認められる対象財産や金額はかなり限定されています。
自由財産の拡張については、以下の記事を読んでください。

参考記事
自己破産でも処分されない財産(自由財産)とは?

 
しかし「交通事故に遭って後遺障害を負い、しかも働けなくなった」というような事情がある場合には、収入状況や今後の生活事情を考慮して、損害賠償請求の大半について自由財産の拡張が認められる可能性もあります。

自由財産の拡張をするためには、管財事件 として申立てる必要がありますので、よく弁護士と相談してください。

例外的に慰謝料請求権は、金額が確定するまで没収されない

つい先ほど、「自己破産の開始決定前に交通事故に遭った場合には、その時点から請求権が発生して履行遅滞に陥るため、理屈上、損害賠償請求権はすべて破産財団になってしまう」という話をしました。

しかし実は、慰謝料の請求権だけは少し違います。
慰謝料の請求権は、行使するかしないかが被害者の意思に委ねられている権利だからです。
これを「行使上の一身専属権」といいます。

一身専属権とは、特定の個人だけが行使できる請求権なので、他の債権者が差押えることができない―説明イラスト

被害者以外は精神的な苦痛を被っていないわけですから、他の人間が、被害者の慰謝料請求権を譲り受けたり、差押さえることはできません。差押えることができないということは、破産法34条3項により、破産手続きの没収対象にもなりません。

【 破産財団の範囲 】

3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
 2号 差押えることができない財産。
 (破産法34条

しかしこの「行使上の一身専属権」は、いったん権利を行使して具体的な金額として確定させた場合には、一身専属性を失うという特性があります。

例えば、交通事故による「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」の場合、示談や裁判によって具体的に金額が確定するまでの間は一身専属権として差押えが禁止されますが、示談が成立して慰謝料の金額が確定してしまえば、その後は差押えが可能になってしまいます。

示談が成立して具体的な金額が確定した後は、一身専属性はなくなり、差押えが可能になってしまう-説明イラスト

これについては、昭和58年10月6日の有名な最高裁の判例があります。
以下、参考にしてください。

根拠:最高裁判例(※クリックタップで開閉)

差押えが可能になるということは、自己破産でも処分対象になる、ということを意味します。

破産法34条では、「破産開始決定時に差押禁止の債権であったとしても、その後、差押えが可能になったものは、破産財団を構成する」と定められています。
(破産法34条3項2号但書き)

そのため、破産手続きが終結するよりも前に、加害者との間で示談(和解)が成立して慰謝料の金額が確定した場合には、その慰謝料請求権は破産財団として没収対象になり、債権者への配当に充てられることになります。

破産手続き終結まで敢えて和解しないことは可能か?

もう1度いいますが、自己破産の開始決定前に交通事故に遭った場合、休業損害や逸失利益などの損害賠償請求権は、まだ具体的な金額が確定する前であっても破産財団になります。

しかし慰謝料に関しては、自己破産の開始前の交通事故が原因でも、まだ示談が成立していなければ破産財団にはなりません。要するに慰謝料だけは、自己破産の手続き中に金額が確定しなければ没収されない、ということです。

ここが少しややこしいので注意しましょう。

休業損害や逸失利益などの損害賠償は破産財団になる、慰謝料請求権は破産財団にならない-説明イラスト

損害賠償の請求期限(消滅時効)は、加害者と損害の両方を知ったときから2年間です。
そのため、通常は自己破産手続きの方が先に終わります。被害者側が、敢えて示談の成立を焦る必要性もありません。

ただし、もう明らかに治療も終わって症状固定もしているのに、自己破産で没収されないように示談成立を先延ばしにする、というのは少しグレーなのも事実です。この辺りは、弁護士に方針をよく相談してください。

また慰謝料の金額が先に確定してしまった場合でも、自由財産の拡張が認められることで、没収対象にならない可能性はあります。

人身傷害保険等で自己破産前に保険金を受け取った場合

被害者が人身傷害保険に加入していたり、自賠責保険の仮渡金を先に申請した場合には、示談交渉を待たずに被害額の一部を受け取ることができます。また労災保険(休業補償給付など)も、比較的、早い段階で受け取れるでしょう。

もし自己破産の開始決定より前にこれらの保険金を受け取った場合には、損害賠償請求権の問題ではなく、現金や預金などの一般財産の問題になります。

ひとたび預金口座に振り込まれてしまえば、もはや債権の性質は関係なく、ただの預金として扱われるからです。これは差押禁止債権でも同じです。

交通事故の損害賠償請求権も、いったん口座に振り込まれた後は、ただの銀行預金になり、自己破産の没収対象になる-説明イラスト

そのため、預金口座の金額が20万円を超える場合には、自己破産による没収対象になります。
ただしここでも、総合的な事情を勘案して「自由財産の拡張」が認められる可能性はあります。

また損害賠償請求の金額が多額で、それによって借金を完済できる場合には、そもそも自己破産が認められない(債務超過と認定されない)可能性もあります。
交通事故の被害者になった場合には、これらの点もしっかり確認しておきましょう。
 

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