自己破産における破産管財人の「否認権の行使」って何?

原則として、自己破産による財産の差押えや換価処分は、自己破産の申立て時に持っている財産が対象となります。しかし、自己破産の申立てより前に行った行為であっても、それが著しく破産債権者の利益を害するものであれば、破産管財人の権利により取り消すことが可能です。

否認権の行使って何?
ねえねえっ、先生ーっ!
破産の申立前におこなった財産の処分や譲渡について、破産管財人の権限でその効力を取り消すことができる場合があるって聞いたんだけど、本当なのーっ?
いわゆる「否認権の行使」だね。本当だよ。
破産手続き申立て前の財産処分や偏頗返済であっても、それが破産債権者の利益や公平性を害するものであれば、その効力を法的に取り消して、破産財団に組み込むことができるんだ。
へぇー。
具体的には、例えばどういうケースでこの否認権の行使がおこなわれるのー? 破産債権者の利益や公平性を害する場合ってどういうことだろう。
例えば、財産の隠匿目的で、破産申立て前に一部の財産を知人に贈与するようなケースが考えられるね。あるいは、破産申立ての直前に、一部の債権者だけに多額の借金を返済するような行為もこれに当たるかもしれない。

 
返済に行き詰った債務者のなかには、追いつめられて冷静な判断ができないまま、高額な財産を不当に安い価格で譲渡・処分してしまうようなケースや、あるいは破産前に財産を隠す目的で親族や知人などに不動産を贈与するようなケースがあります。

これらの行為は、本来、自己破産と同時に破産財団に属して、全ての債権者に平等に分配されるべき財産を、不当に毀損・減少する行為にあたります。そのため、破産債権者の利益を守るために、破産管財人には破産申立て直前に行われた上記のような取引の法的効力を取り消すことが認められています。

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破産管財人の「否認権」の行使の2つのパターン

破産管財人に認められた否認権の行使には、主に2つのパターンに分類できます。「詐害行為の否認」「偏頗弁済の否認」です。

詐害行為の否認

詐害行為は、破産債権者を害することを知っていて行われた財産の処分や行為のことを指します。主には財産の隠匿、隠蔽などのケースが例として挙げられることが多いです。

詐害行為
債務者が、例えば財産を差押えられることを避けるために、他人に財産を贈与するなど、債権者を害するために自己の財産を減少させる行為のことをいいます。債権者を害する、というとイメージしずらいですが、要は債権者が十分に弁済を受けられないよう財産を故意に減らす行為のことです。

 
詐害行為の否認については破産法の160条(破産債権者を害する行為の否認)で定められています。
ただしこの詐害行為が、一部の債権者への弁済を目的として行われたものである場合には、破産管財人はその債務を超過する部分に対してのみ否認することが可能です。

債務の消滅に関する行為の場合
例えば、支払いの停止があった後に、一部の債権者の債務に対してのみ1000万円の債務に対して、1500万円の不動産の譲渡によって代物弁済した、と仮定した場合、債務超過にあたるのは500万円分。この500万円に対してのみ、管財人による譲渡の否認が認められます。

 

偏頗弁済の否認

自己破産をするにあたって、破産財団に属する債務者の財産は、すべての破産債権者に平等に配当されなければいけません。例え、自己破産前であったとしても、一部の債権者だけに優先的に多額の返済を行ったことで、その他の債権者に本来配当されるべき財産が不当に減少してしまうことがあっては不公平です。

そこで破産法では、偏頗弁済を認めない旨を定めています。また破産法162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)により、破産管財人には偏頗弁済を無効にして破産財団として回復させる権利があります。

偏頗弁済
偏頗弁済とは文字通り、「偏った(かたよった)返済」のことで、特定の債権者のみに返済して、特定の債権者には返済しない、という行為のことです。自己破産では、特に債権者平等の原則が重要視されているため、一部の債権者のみに優先的に返済する不公平な返済方法は認められません。

 

否認権の行使は破産管財人にのみ認められた権利

この否認権の行使は、破産管財人にのみ認められた行為です(破産法173条「否認権の行使」)。破産債権者が自らこの否認権を行使することはできません。

管財人により否認権が行使された財産は、法的効力を失い破産財団に復します。

管財人による否認権行使の例
アタルさんは、破産手続き開始の1カ月前に自身が所有している不動産物件を知人のトオルさんに贈与したとします。
破産手続き直前に、このような贈与契約により本来、破産財団に属するべき不動産を逸出するのは詐害行為にあたるため、破産管財人はこの贈与契約や、それに基づく所有権移転登記の効力を法的に無効にすることができます。

贈与の意思表示や所有権移転登記が法的に無効になると、トオルさんは不動産をアタルさんに返還せざるを得なくなります。それにより、この不動産は破産財団に復することになり、破産管財人により競売にかけられて換価され、破産債権者に配当されます。

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