銀行預金の差押え後の取立てや裁判所の配当手続きの流れ

銀行預金を差押えた場合、差押命令が債務者に届いてから1週間が経過すると、債権者は銀行からの取立てが可能になります。しかし、銀行が 権利供託※ により、差押えられた預金を供託所に預けてしまったり、あるいは他の債権者と差押えが競合してしまい、銀行が預金を 義務供託※ した場合には、裁判所による配当手続きや弁済金交付手続きによらなければ弁済金を受け取ることができなくなります。今回は銀行預金を差押えた後の取立て方法や、裁判所の配当手続きの流れを解説します。

預金差押え後の取立てや配当手続き
ねえねえ、先生ー!
銀行預金の差押えの申立てをして、無事、裁判所から差押命令を出して貰ったんだけど、この後、実際に差押えた預金を回収するためにはどうしたらいいの?
債務者に差押命令が送達されてから1週間以上が経過していたら、法的にはもう取立てが可能だから、直接、銀行に連絡をとって払戻請求をすれば大丈夫だよ。ちゃんと1週間が経過してるかどうかは、裁判所からの送達通知書や、送達証明書で確認すればいい。
なんだ、直接、銀行さんに連絡とって支払って貰えばいいのね。
てっきり差押えた預金を回収するには、なんか裁判所に出頭して配当手続きをして貰わなきゃいけないのかと思ってたんだけど。裁判所が関わってくるのは、どういうケースなの?
それは銀行が供託をした場合だね。債権者が1人しかいない場合は、銀行は直接その債権者に預金を支払ってもいいんだけど、お金を預けて裁判所に支払いを委ねてもいいんだ。これを 権利供託※ というんだけどね。この場合は、裁判所が代わりに弁済金交付手続きを行う。
うーん、難しいな・・・。
つまり自分で支払いをすると、間違って払っちゃったりしたときに責任を負わないといけないから、それが怖い場合は、供託所にお金を預けて裁判所に支払いをお願いできるってこと?
まさに、そうだね。そして、もう1つのパターン。もし他の債権者も同じ預金を差押えて、差押えが競合した場合には、銀行は必ず預金の全額を供託しなければならないんだ。これを 義務供託※ というんだけど、この場合には、裁判所は配当手続きをおこなうんだ。
  • 債務者に差押命令が送達されて1週間が経つと、債権者は払戻請求が可能
  • 銀行は直接、債権者に支払ってもいいが、裁判所に支払いを委ねてもいい
  • 裁判所の交付手続きには、弁済金交付手続きと配当手続きの2つがある
  • 債権者が1人しかいない場合は、裁判所は弁済金交付手続きをおこなう
  • 債権者が複数人いて競合している場合は、裁判所は配当手続きをおこなう

1週間が経過すれば直接、銀行から支払って貰える

裁判所に銀行預金の差押えを申し立てると、裁判所から「銀行」と「債務者」宛に差押命令が送達されます。この差押命令が、相手の債務者に送達されてから1週間が経過すると、債権者には取立権が発生するため、銀行からの直接の取立てが可能になります。

1週間で取立てが可能-図

そのため、基本的には1週間待ってから銀行に連絡をとり、直接、差押えた債権額分のお金を支払って貰えばいいだけです。

銀行から差押えた預金を支払って貰うのに必要なもの

債権者が取立ての権利を行使して直接、回収する場合には、裁判所はそこには関与しません。そのため、勝手に自分で銀行に連絡を取って、どのような方法で支払いを受けるかを相談する必要があります。

銀行によっても対応は異なりますが、基本的には以下のような点を確認して問題がなければ、差押えた預金を支払って貰えるはずです。

  • 送達証明書で1週間が経過していることを確認
  • 他の債権者による差押命令が届いてないかを確認
  • 裁判所から執行停止や自己破産の開始が届いてないか確認
  • 請求者が差押えをした債権者本人なのかの確認

本当に1週間が経過しているかの確認

前述のように相手に差押命令が届いてから1週間以上が経過していないと、取立てが禁止されますので、銀行は「本当に1週間以上が経過しているか?」の確認を求めるのが一般的です。

確認の方法としては、通常は、裁判所から送られてくる「送達通知書」を銀行に提示します。

差押命令の発令後、第三債務者(銀行)と債務者それぞれにいつ差押命令が送達されたかを通知する書類が裁判所から送られてきているはずなので、その通知書で「ちゃんと1週間以上が経過していること」が確認できます。

送達通知書で1週間経っているかを確認

他にも、あらためて裁判所書記官に「送達証明書」を発行して貰う方法もあります。どちらでも構いません。

他の債権者による差押えの有無の確認

取立ての時点で、「他の債権者から差押命令が届いてないか?」が確認されます。他の債権者による差押えがなければ、そのまま支払いを受け取ることができます。

しかし、もし他の債権者からも差押命令が届いていて競合している場合には、銀行はそのまま取立てに応じることはできず、裁判所に配当手続きを委ねなければなりません。

他の債権者と差押えが競合すると配当になる-図

差押えた時点では他の債権者と競合していなかったとしても、実際に取立てをするときまでに他の債権者の差押命令が届いていた場合は、裁判所による配当手続きになります。

債権が競合した場合の優先順位については、以下の記事を参考にしてください。

裁判所からの執行停止や破産開始決定の通知

もし相手の債務者が差押命令を不服として、執行抗告などを申立てたとしても、それだけでは強制執行は停止しませんので、普通に1週間が経過すれば銀行から支払いを受けることが可能になります。

ただし、「債務者が自己破産を申立てていて自己破産の開始決定がされた場合」や、「債務者の執行抗告に相当な理由があり、裁判所が職権で強制執行を停止した場合」などは、裁判所から銀行に強制執行の停止を通知する書面が届きます。

債務者側の対抗措置については、以下の記事を参考にしてください。

このように、裁判所から何からの執行停止の通知が届いていた場合には、当然ながら銀行からの支払いを受けることはできなくなります。





銀行が供託した場合の裁判所の弁済金交付手続きとは

「債権者におそらく取立権が発生している」と思われる場合でも、権利関係がややこしい場合などは、銀行は念のために債権者に直接支払わずに、差押えられた預金を法務局に供託することもできます。

つまり「間違って債権者に支払ってしまって、後で預金者や他の債権者に責任追及されても困る」という場合に、法務局に対象の預金を預けてしまって、「あとの支払いは裁判所にお任せします!」ということができるんですね。この任意の供託のことを「権利供託※」といいます。

この権利供託がなされた場合は、裁判所は「弁済金交付手続き」をおこない債権者への支払いを代わりにおこないます。

裁判所の弁済金交付手続きの説明図

なお、この弁済金交付手続きは、債権者が1人しかいない場合など「差押えの競合が起きていない場合」のみの支払手続きです。既に複数の債権者が差押えをしている場合は「弁済金交付手続き」ではなく、後ほど解説する「配当手続き」になります。民事執行法84条2項

弁済金交付手続きの流れと支払いを受け取る方法

銀行による権利供託がなされると、銀行はまず執行裁判所に「事情届」を提出し、「供託しました」ということを裁判所に通知します。

この時点で、裁判所による弁済金交付手続きが開始しますので、他の債権者はもう配当加入(差押えに参加して配当を要求すること)ができなくなります。

次に弁済金交付手続きが開始すると、まず裁判所から債権者と債務者の両方に、弁済金交付日通知書が送達されます。これは以下のような書面です。

弁済金交付日通知書の書面の例

一応、債務者に対しても送達されるのは、「もし債権者に弁済金の交付をおこなった後に、剰余金があれば債務者にも交付される」からです。

剰余金があろうとなかろうと裁判所からの「弁済金交付日通知書」は債務者にも届きます。たまに「裁判所から弁済金交付日通知書が届いたけど、どうすればいいのか?」という債務者の方の質問を見かけますが、もし剰余金がない場合は、債務者は何もしなくても(出頭しなくても)大丈夫です。

一方、債権者は、弁済金交付日に裁判所に出頭して、裁判所から「支払証明書」を受け取る必要があります。この証明書は、後ほど供託所で実際に弁済金を受け取るときに必要になります。

弁済金交付日には支払証明書を受け取る-図

供託所で証明書を提出して払い渡しを受ける

債権者が弁済金を受け取るにしても、債務者が剰余金を受け取るにしても、弁済金交付日に裁判所に出頭して、その場で現金が受け取れるわけではありません。裁判所の役割は、あくまで「配当額や交付額を決めるだけ」だからです。

そのため、実際に供託金から支払いを受け取るためには、管轄の「供託所」に行く必要があります。

管轄の供託所にいくと、その場で「供託金払渡請求書」が備え付けられていますので、必要事項を記入した上で、裁判所から貰った「証明書」を必ず添付します。他にも本人確認のための、印鑑証明書や実印、法人の場合は資格証明書も必要です。

払渡請求に必要な書類

  • 供託物払渡請求書(備え付け)
  • 支払証明書(裁判所で交付されたもの)
  • 実印と印鑑証明書
  • 資格証明書(法人の場合)

【参考リンク】供託金の還付請求をする際に必要な書類について-法務局

その他、代理人が行く場合には委任状も必要です。詳しくは上の法務局ページ等をご確認ください。

差押えが競合した場合の裁判所の配当手続きの流れ

さて、先ほど解説した弁済金交付手続きは、債権者が1人しかいない場合など「競合はおきていないけど、念のために銀行が権利供託した場合」の裁判所の支払い手続きでした。

一方、差押えが競合している場合には、銀行は必ず供託しなければならないと法律で定められています。民事執行法156条2項

差押えが競合した場合の銀行の供託義務-図

例えば、預金残高が50万円しかない状態で、債権者Aさんが30万円、債権者Bさんが40万円を重複して差押えた場合には、預金額だけでは2人の債権者に全額を弁済することができません。

この場合、銀行は勝手に各債権者への支払いをおこなうことはできず、必ず預金全額を法務局に供託して裁判所に配当を委ねなければなりません。これを「義務供託※」といいます。

銀行による義務供託がなされると、裁判所が「どの債権者にいくらずつ配分するか?」を最終決定して、配当手続きをおこないます。

裁判所の配当手続きの流れとスケジュール

銀行は、差押えの競合により預金を供託した場合、まず裁判所に「事情届」を提出して「供託しました」ということを通知します。これは弁済金交付手続きと同じですね。

銀行が供託をすると、その時点が「配当要求終期」となります。つまりそれ以降は、新しく他の債権者が二重差押えをしたり、配当要求することはできません。

配当要求終期

次に、裁判所は各債権者と債務者の両方に「配当期日呼出状」を送付します。この配当期日呼出状は以下のような書面です。債権者に対しては、一緒に「債権計算書提出の催告書」「期日請書」なども送付されます。

配当期日呼出状

この呼出状の送達後、債権者は、裁判所に1週間以内に「期日請書」と「債権計算書」を提出するように求められます。

期日請書というのは、単に「×月×日に配当期日が指定されたことについて承知しました」ということを裁判所に示すための書面です。配当期日呼出状は、手続き費用の節約のために普通郵便で送られることも多いので、その場合は、この期日請書を提出することで呼出が完了します。

なお債務者に対しては、配当期日呼出状も特別送達で送られることが多いので、期日請書の提出はありません。





まず裁判所が債権計算書をもとに配当表を作成する

債権計算書というのは、現在の債権額がいくらなのかを利息とともに計算した書面のことですが、基本的には「差押命令申立書」に記載したときの債権額と同じ金額を記載するよう指導されます。

債務者などから返済があったりして、差押命令を申立てたときと債権額が変わっている場合は別ですが、そうでない限りは、非常にややこしくなるので「利息」や「遅延損害金」などの計算も、債権差押命令を申立てた時点までの分しか考慮しないのが一般的です。

債権計算書の例

債権計算書が揃ったら、裁判所書記官はその書面の内容をもとに、各債権者への配当額を計算して配当表を作成します。

配当金額の計算は、基本的には債権額に比例した 按分配当※ になります。例えば、債権者Aの差押えが50万円、債権者Bの差押えが50万円、債権者Cの差押えが25万円であれば、2:2:1で配当されます。

ただし、税金の滞納処分による差押えを受けている場合には、そちらが優先されます。債権差押えの優先順位については、以下の記事を参考にしてください。

さて、配当呼出期日に裁判所に出頭すると、裁判所からこの配当表に従って「支払証明書」が交付されますので、必ずこの証明書を受け取っておいてください。配当期日に出頭できなかった場合は、その分の配当金は供託されます。

この後の流れは弁済金交付手続きと全く同じです。管轄の供託所に行き、払渡請求書と一緒に裁判所から貰った証明書を提出して、供託金の払渡請求をしてください。

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