差押えた銀行預金が他の債権者と競合した場合の優先順位

強制執行により差押えた債務者の銀行預金が、他の債権者によっても同じように差押えられて、その債権額の合計が預金残高を超えた場合(つまり預金が足りない場合)、預金はそれぞれの債権額に応じて平等に 按分配当※ されます。同じ預金口座に対して、複数の「差押え」「仮差押え」「配当要求」などが競合した場合、これらの配当に先着順や権利関係による優劣はありません一方、同じ預金口座に対して、税金の滞納処分による差押えがされた場合は、税金回収がまず優先されます。

銀行預金の差押えの競合について
ねえねえ、先生ー!
銀行預金を強制執行で差押えて、無事、差押命令が出されたとしても、実際に取立てが終わるまではまだその預金の全額が貰えることが確定したわけじゃないんだよねー?
そうだね、実際に取立てを終わらせる前に、他の債権者が同じ債務者の預金口座を重複して差押えた場合、差押えが競合することになっちゃうからね。他にも、仮差押えや配当要求、税務署による税金の滞納処分とかとも競合してしまう可能性はある。
せっかく先に差押えたのに、残念だね・・・。
他の債権者が後から差押えしてきて、差押えが競合しちゃった場合は、やっぱり差押えた預金を他の債権者とみんなで分けないといけないんだよねー? 最終的には、どうやって決着をつけるのー?
基本的には、裁判所が取り仕切って配当手続きを進めることになるね。配当額としては、滞納税金とかの租税債権がある場合は、そっちが優先されるけど、それ以外の差押え、仮差押え、配当要求は順番に関係なく、債権額に比例して 按分配当※ することになる。
なるほど。
やっぱり差押えた預金は早く回収を済ませてしまわないと、他の債権者に取り分を減らされちゃう可能性があるってことだね・・。取立てがすぐに難しい場合で、何か良い方法はないの?
前の記事 でも解説した 転付命令※ は1つの方法だね。債務者が銀行に対して持っている預金債権を、そのまま自分に移転してしまえば、もうそれ以降、他の債権者は差押えできないからね。それ以外にも、取立訴訟をすれば他の債権者は手出しできなくなる。
  • 複数の債権者が同じ預金を差押えて、債権額が預金を上回る状態を競合という
  • 他の債権者による差押え、仮差押え、配当要求の優先順位はすべて同じ。
  • 市町村役所や税務署による滞納処分と競合した場合は、租税債権が優先する
  • 差押えが競合した場合は、銀行は預金の供託義務を負い、裁判所が配当する
  • 取立てが完了するか、転付命令や取立訴訟をすれば、差押え競合を回避できる

他の債権者と預金の差押えが重なった場合の優先順位

訴訟などでやっと 債務名義※ を取得して、強制執行をして預金口座を差押えたとしても、その段階ではまだ安心できません。実際に預金の取立てが完了するまでは、他の債権者も同じ預金口座を差押えることが可能だからです。

取立てが完了する前に他の債権者から差押えがあった場合-図

例えば、預金口座に50万円しかない状態で、債権者Aさんが40万円、債権者Bさんが60万円を差押えた場合、預金残高だけでは2人の債権の全額を弁済することができません。

このような状態を差押えの競合といいますが、もし差押えが競合した場合、「どちらが先に差押えをしたか?」という順番は全く関係なく、平等に按分配当しなければならないと決まっています。

按分配当の図

この場合、債権額の比率がAさんとBさんではそれぞれ2:3なので、差押えにより回収できる金額は、Aさんが20万円、Bさんが30万円になります。「私の方が早かったのに、後から差押えたBさんの方が多く貰えるなんておかしい!」と思うかもしれませんが、そういうルールです。





仮差押え、配当要求、滞納処分、交付要求との競合について

銀行預金の差押えで競合する可能性があるのは、他債権者の「差押え」だけではありません。他にも、「仮差押え」「配当要求」「滞納処分」「交付要求」をしている債権者も、同じ預金口座に対して分け前を要求することができます。

仮差押え、配当要求、滞納処分、交付要求の図

「差押え」「仮差押え」「配当要求」は、いずれも一般の私債権(貸したお金を返して貰う等)をもとに私たちが裁判所に申し立てる制度です。一方、「滞納処分」「交付要求」は、市町村や税務署が、債務者の滞納税金を回収するためにおこなう制度です。

つまり、差押えというのは、何も貸金業者や一般の債権者たちだけが競合するわけではなく、市役所や税務署とも奪い合いをしなければならないケースがあるわけです。

さて、これらの優先順位を確認する前に、まずはこの5つの制度がどのようなものかをざっくり解説します。今更いわれなくても知ってるよ、という方は こちら から読み飛ばしてください。

差押え(強制執行)

差押えというのは、つまり強制執行と同じ意味です。「裁判所に申し立てて、相手の預金口座から強制的にお金を回収する方法」ですね。

私たちのような一般の債権者は、市役所や税務署などとは異なり、自力で強制的に相手の預金口座からお金を回収するような権力も方法もありませんので、強制回収をするためには、必ず裁判所の手を借りる必要があります。その唯一の方法が強制執行です。

強制執行するには司法の手を借りないといけない-イラスト

強制執行を裁判所に認めて貰うためには、まずは「訴訟をおこして確定判決を貰う」「支払いの約束を公正証書に残す」「民事調停で調停調書を作成する」などの方法で債務名義を取得する必要があります。債務名義がなければ、単に契約書や示談書を持っていても、それだけで強制執行はできません。

仮差押え

仮差押えというのは、まだ強制執行が可能な「債務名義」を持っていない債権者が、「今から訴訟をするけどまだ時間がかかるから、その間、財産を逃がさないように保全しておいて下さい」と裁判所に申立てる民事保全手続きです。

つまり「まだ訴訟で判決が確定するまでには時間がかかるけど、その間に債務者に預金を使い込まれたら困る」「他の債権者に奪われてしまったら困る」という場合に、仮差押えをしておけば、その金額分を処分できないように裁判所が銀行に仮差押命令を出してくれるのです。

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もちろん、仮差押えはあくまで「仮」なので現時点で取立てることはできませんが、裁判が終わるまでの間、「保全して置いて貰う」ことができます。そのため、もし他の債権者の差押え(強制執行)と仮差押えが競合した場合でも、仮差押えをした債権者の分の金額は保護されます。

配当要求

配当要求というのは、既に債務名義を持っている債権者が、先行する差押えの手続きに参加する制度のことをいいます。

つまり、「自分で強制執行(本差押え)をする権利」を持っているものの、わざわざ自分で差押えの申立てをせずに、「既に他の債権者が差押えを申し立ててるんだから、それに一緒に参加させてよ」という制度のことです。

先行する差押えに参加するのが配当要求-図

仮差押えの場合とは違い、既に「訴訟が終わって確定判決を取ってる」「裁判所の作成した和解調書や調停調書を持ってる」という方が、他の方の差押えに便乗する手続きなんですね。

この配当要求は、特に不動産に対する強制執行(強制競売)では実際によく見られます。

裁判所としても、同じ不動産に対して、何人もの債権者が別々に競売手続きを申し立てて来られても面倒なので、「1つの競売手続きにまとめて参加して貰った方がいい」からですね。債権者としても、「申立費用が安くすむ」などのメリットがあります。

不動産の強制執行(競売)での配当要求のイラスト

ただし、銀行預金の差押えの場合は、あまりこの配当要求がされるケースは多くありません

そもそも銀行預金の差押えの場合は、自分で差押えてみるまで「他の債権者による差押え、仮差押えがあるか?」はわからないので、他の債権者の差押えに便乗する、というケースがあまりないからです。

不動産の差押えのように、裁判所から配当要求終期の公告があるわけでもありませんし、自分で差押えをしてみて「あ、他の債権者が先に差押えをしていたのか・・・」と発覚するケースが大半です(この場合は、配当要求ではなく、単なる二重差押えになります)。

また配当要求の場合は「先の債権者が差押えている金額の範囲でしか配当を受けられない」というデメリットもあります。せっかく預金口座が100万円あっても、最初の債権者が30万円しか差押えていなければ、そこに配当要求しても30万円を分け合う形にしかなりません。

(補足)配当要求ができる債権者の要件(※クリックタップで開閉)

滞納処分

市町村や税務署が、税金の滞納などを理由に債務者の預金口座を差押えることを、「滞納処分による差押え」といいます。言葉としては同じ「差押え」ですが、この滞納処分をおこなうのは裁判所ではないという点が大きく違います。

税金を滞納した場合の回収は、国税徴収法という法律で、自治体や税務署が自力で強制回収することが認められています。つまり行政が直接、銀行に連絡を取って滞納者の預金口座を差押えて貰い、銀行から直接、お金を取立てる権限が認められているわけですね。

滞納した税金の徴収(滞納処分)の場合-図

この滞納処分の手続きには、裁判所は関与しないわけですが、私たちの一般債権の強制執行による取立てとぶつかってしまった場合が問題になります。

つまり「強制執行による差押え」は裁判所が主導しますが、「滞納処分による差押え」は行政が主導します。これらが競合してしまった場合には、うまく連携を取って手続きを進めていかなければなりません。

そのために、「滞納処分と強制執行等の手続きの調整に関する法律」(滞調法)という法律まであるんですね。

滞納処分と強制執行等の手続きの調整が必要-イラスト

ちなみに詳しい優先順位は後ほど詳しく説明しますが、「租税債権の回収は私債権に優先」します。つまり50万円の預金口座に対して、先に民事の強制執行による差押えがされていたとしても、後から50万円の滞納処分による差押えを受けた場合、全額を税務署に持っていかれることになります。

こればっかりは仕方ないですね。

交付要求

交付要求というのは、市町村や税務署が徴収のために行う手続きで「先にもう裁判所が強制執行を進めている場合に、その手続きに参加して裁判所に配当を要求する」という制度です。つまり市町村や税務署がおこなう配当要求のようなものですね。

先ほど、滞納処分は行政が主導しておこなう手続きだということを説明しましたが、実際には、一般債権の強制執行により、「先に裁判所が関与して、競売などの換価手続きや、預金差押えの手続きを進めてしまっているケース」も当然あるわけです。

このような場合には、市町村や税務所は、手続きの進行そのものは裁判所に任せて「配当だけちゃんと優先的にくださいね」という要求書を提出します。このように、先行する民事の差押えに対して、公的機関が後から参加して配当を要求するのが「交付要求」です。

先に裁判所が差押えている場合は交付要求-イラスト

つまり私たちが交付要求を申請する、というケースはありえません。交付要求という言葉が出てきた場合は、預金差押えの「競合相手」として登場することになります。

ちなみに預金差押えの場合は、前述のように「差押えてみるまで他の債権者の差押の有無はわからない」のが普通なので、税務署や役所も最初から「交付要求をする」ことは滅多にありません。

最初は滞納処分により預金口座の差押えをしてみて、その結果、既に先に民間人が強制執行による差押えをしていた場合は、裁判所に交付要求をする、という流れになります。(手続き上は、競合した時点で自動的に交付要求があったものとみなされます。これを「みなし交付要求」といいます)





租税債権と一般債権の差押えの優先順位について

まず先に少し触れましたが、国や地方団体の「税金に関する徴収権」と、私たちの強制執行による差押えが競合してしまった場合は、税金の徴収権が優先になります。これは差押えが「先か」「後か」は関係ありません。

預金債権などの差押えで、一般債権と租税債権が
競合した場合は、順番に関係なく税金が優先-図

唯一、税金の納付期限よりも前に、こちらが抵当権を設定していた場合には、私債権が優先されますが、これは主に不動産競売の話です。銀行預金の差押えの場合はあまり関係のない話なので、「税金の徴収と競合した場合は、その金額分は優先的に持っていかれる」と考えておいていいと思います。

滞納処分による差押えが先だった場合

金額の優先順位としては、どちらが先かは関係ありませんが、手続き上は「どちらが先か?」が少し関係してきます。まず滞納処分による差押えの方が早かった場合でも、その上に私たちが重ねて差押えを申立てることはできます。裁判所も差押命令を出してくれます。滞調法20条の3

ただし、市町村や税務署は、後続の差押命令に関係なく直接、銀行からお金を取立てることができます。

例えば、預金残高が100万円、滞納処分による徴収金が50万円、強制執行の債権が70万円で、滞納処分による差押えの方が早かったとしましょう。この場合、税務署は先に50万円を銀行から取立てます。後から70万円分の差押えをしている一般債権者は、滞納処分による差押えが解除されるまでは自分の債権を取立てることができません。滞調法20条の5

先に滞納処分の差押えがある場合-イラスト

一方、銀行の立場としては、税務署の徴収職員にそのまま50万円を支払ってもいいですし、預金100万円の全額を 供託※ することもできます。供託された場合は、先に税務署が供託所に50万円分の還付請求をおこない、残りの50万円分について執行裁判所が配当手続きを引き継ぎます。

このように税務署は後から一般債権者に二重差押えをされても、全く気にせずに自分の徴収分を取立てることができるわけですが、これだけ読むと「じゃあ一般の債権者が後から二重に預金口座を差押える意味はあるの?」と思われるかもしれません。

しかし、それでも二重差押えは意味があります。なぜなら、税務署が徴収金を回収した後に残ったお金(50万円分)については、そのまま「差押え」を引き継ぐことができるからです。差押えが競合していれば、税務署や役所は自分の回収が終わった後に、残余金があれば、それを裁判所に通知することになっています。

滞納処分の後に二重で差押えておく意味

もし二重差押えをしていなかったら、税務署が行政処分による回収を終えた時点で、銀行に対する差押えが一度解除されてしまいますので、債務者は残りの預金を慌ててすぐに引き出すことが出来てしまいます。

そうすると、一般の債権者は残金を回収しそびれてしまうわけですね。

強制執行による差押えが先だった場合

強制執行による差押えが先だった場合は、後に続く滞納処分による差押えはそのまま自動的に「交付要求」となり、裁判所による配当手続きがおこなわれます。その配当手続きにより、まず優先的に税務署等への配当が行われることになります。

これは先ほど、交付要求の説明をしたときにも解説しましたね。もう一度、同じ説明図を貼っておきます。

先に裁判所が差押えている場合は交付要求-イラスト

例えば、預金残高が100万円、強制執行の債権が70万円、滞納処分による徴収金が50万円で、強制執行の方が早かったとしましょう。

この場合は、銀行は先ほどのように市役所や税務署に直接、50万円を支払うことはできません。銀行の立場としては、預金残高100万円の全額を供託して裁判所に配当を委ねなければならないのです。滞調法36条の6

とはいえ、配当金額としては租税債権が優先されることは変わりません。

預金100万円が供託されると、裁判所は配当手続きにより、「税務署に50万円、一般債権者に50万円を配当する」という配当表を作成して、それぞれの債権者に支払証明書を交付します。その証明書をもとに、それぞれの債権者は供託所にいって、払い渡しを受けることになります。

仮差押えと滞納処分が競合した場合

一般の方の私債権による「仮差押え」と、税務署などの滞納処分による「差押え」が競合した場合は、仮差押えは滞納処分に対して何の効力もありません。つまり無視されます。

例えば、預金残高100万円に対して、先に一般の方が50万円の仮差押えによる保全をしていて、その後に、税務署が滞納処分により70万円分の預金を差押えたとしましょう。

この場合、税務署や市町村は、銀行から直接70万円分の徴収金を取立てることができます。(銀行の立場としては、供託することはできません。直接、税務署に支払わなければなりません)

先に裁判所による仮差押えがある場合-図

これは国税徴収法に以下のような定めがあるからです。

【国税徴収法140条】

滞納処分は、仮差押または仮処分によりその執行を妨げられない。(国税徴収法140条

ただ、もし強制執行による差押え(本差押え)だったとしても、結局は租税権が全額優先されるわけですから、結果としては同じです。

仮差押えの場合は、たとえ先行していたとしても、上記の「差押えの方が早かった場合」のように、裁判所による配当手続きになることはない、というだけの話で、手続き上の違いでしかありません。





一般債権の差押え、仮差押え、配当要求の優先順位は?

次に一般債権同士で競合があった場合ですが、まず重要なポイントとして「仮差押え」「差押え」「配当要求」の3つで権利関係による優先順位は全くありません。

差押え、仮差押え、配当要求の3つで優劣はない-イラスト

「仮差押えの債権者は、まだ”仮”だから本差押の方が優先される」といったこともありませんし、「差押えを申立てた人の方が、後から配当要求しただけの人よりも優先される」といったこともありません。

「誰の方が早かったか?」という順番も関係なく、すべて同列に扱われます。

【配当等を受けるべき債権者の範囲】

配当等を受けるべき債権者は、次に掲げる時までに差押え、仮差押えの執行、または配当要求をした債権者とする。(民事執行法165条

なので、「まだ訴訟をしていないので債務名義がない」という方でも、仮差押えを申し立てておくことで配当に参加することができますし、「差押えだとギリギリ間に合わないかも」という場合でも、配当要求を申立てることで配当に参加できます。

銀行預金の差押えの申立ての場合は、「差押命令が銀行に届いた時点」で効力が生じますが、配当要求の申立ての場合は、「裁判所に申請が受理された時点」で効力が生じます。

配当要求は、裁判所に受理された時点で有効-図

そのため「もうすぐ銀行が預金を供託しようとしている場合」など、本当にあと2~3日以内でないと間に合わない瀬戸際などの場合は、配当要求の方が少しだけ足が速くなります。(銀行が預金を供託してしまうと、もうそれ以降は他の債権者が差押えに参加することはできません)

逆にいうと、銀行預金の強制執行の場合は、敢えて差押えではなく配当要求にするメリットは、それくらいしか思い当たりません。

一般債権同士での競合は債権額での按分になる

最初にも述べましたが、一般債権同士で預金の差押えが競合した場合は、(法律上の特別な優先債権でない限り)債権額で平等に按分されることになります。

例えば、債権者Aさんの債権額が100万円(差押)、債権者Bさんが200万円(仮差押)、債権者Cさんが50万円(配当要求)で競合した場合の、配分比率は「2:4:1」です。その他の、仮差押えかどうかや、順番がどうかは関係ありません。

配分比率の説明図

ちなみに「仮差押え」の債権者の方は1つ注意が必要な点があります。

「仮差押え」の債権者であっても、他の「差押え」や「配当要求」の債権者と全く同じように按分配当を受けることができると言いましたが、彼らのように「今すぐ現金を受け取る」ことはまだできません。まだ仮の差押えの段階ですから当然ですよね。

では、仮差押えの債権者への配当分はどうなるのかというと、そのまま裁判所に供託されます。つまりキッチリ分け前は確保して貰えるものの、まだ渡しては貰えない状態になる、ということです。

【民事執行法91条】

配当を受けるべき債権者の債権について、次に掲げる事由があるときは、裁判所書記官は、その配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。(民事執行法91条

(2)仮差押債権者の債権であるとき。

では、仮差押えをした債権者はいつその取り分を受け取れるのかというと、訴訟などで勝利して確定判決を得るなど「権利が確定したとき」です。

債務名義を取得して権利が確定すると、執行裁判所は証明書を交付してくれますので、その証明書を持って供託所に行き、供託金の払い渡し請求をすれば、差押えが競合したときの配当金を実際に受け取ることができます。民事執行法92条

仮差押えは確定したときに配当を受け取れる-図

一般債権の競合による配分は必ず裁判所がおこなう

なお、差押えの競合があった場合は、配当手続きは必ず裁判所がおこないます。勝手に債権者が自分の分を取立てることはできません。

例えば、預金残高が100万円に対して、債権者Aさんが50万円を差押え、債権者Bさんが20万円を仮差押えという場合は、競合は発生してませんので、各自が直接、銀行から取立てをおこなって構いません。

しかし、もし債権者Aさんが70万円の差押え、債権者Bさんが80万円の仮差押えをした場合は、預金残高の100万円だけでは弁済しきれない状態になります(この状態になってはじめて「競合」になります)ので、債権者は勝手に銀行からの取立てることが禁止されます。

この場合は、銀行は必ず預金債権の全額を供託所に供託しなければならないと法律で定められています民事執行法156条2項
この供託をした後に、銀行は裁判所に「差押えの競合があったので供託しました」という旨を通知し、それを受けて裁判所が配当手続きを開始します。

なお、供託がよくわからない方は以下を参考にしてください。

(補足)第三債務者である銀行の供託義務について(※クリックタップで開閉)

仮差押えと仮差押えが競合した場合の手続き

このように「差押え」と「差押え」が競合した場合や、「差押え」と「仮差押え」が競合した場合には、銀行は預金残高の 全額 を供託する義務があり、銀行が対象となる預金を供託して、それを裁判所に通知した時点で、裁判所による配当手続きが開始します。

一度、銀行による供託がされると、その分の預金に対してはもう他の債権者が後から差押えに参加することはできなくなります。

差押えと差押えの競合、差押えと仮差押えの競合の説明図

一方、「差押え」に対して「配当要求」がされた場合には、配当の対象となるのは最初に差押えされた金額に限定されますので、銀行に供託義務が課せられるのは、全額ではなく最初に差押えられた金額分だけです。(ただし、銀行は全額を供託したければ、任意で供託しても構わないことになっています=権利供託)

この場合も、銀行が一部の差押債権(または全額)を供託して、それを裁判所に通知した時点で、配当手続きが開始されます。こちらも銀行が供託をした時点で、それ以上の差押えや仮差押え、配当要求はできなくなります。

差押えに配当要求がされた場合の説明図

では、「仮差押え」と「仮差押え」が競合した場合はどうでしょうか?

例えば、銀行預金が100万円しかない状態で、債権者Aさんが80万円の仮差押え、債権者Bさんが70万円の仮差押えをしたとしましょう。この場合も、一見、競合が生じているように見えますが、実際にはまだこの時点ではどちらの債権者も「仮」なので、この時点では配当手続きは開始しません。

そのため、銀行としてもこの時点では、供託しても供託しなくても構いません。また、他の債権者もまだ差押えが可能な状態が続きます。

仮差押えと仮差押えの競合の説明図

銀行がすぐ供託しない場合

もし銀行が供託しない場合は、他の債権者はその預金債権に対してさらに差押えを行うことができます。そして他の債権者が重ねて「差押え」をしてきた場合や、元々の仮差押えをしていた債権者が債務名義を取得して、正式に「差押え」に移行してきた場合には、その時点で銀行は全額を供託する義務を負います。

銀行が預金を供託してそれを裁判所に通知したら、その時点から裁判所による配当手続きが開始します。それ以降、他の債権者による差押えや配当手続きへの参加はできません。

銀行がすぐ供託した場合

もし銀行が、仮差押えが競合した時点で全額を供託してしまった場合はどうでしょうか?

この場合は、供託は「執行供託」ではなく「弁済供託」の扱いになります。ここでは簡単にいうと、「まだ配当手続きが開始しない性質の供託」のことだと思っていただければ大丈夫です。

つまり、この仮差押えの競合による供託がされたとしても、この時点では、他の債権者がまだ後から重ねて差押えすることは禁止されません。

この弁済供託がされた場合、仮差押えをした債権者は、「預金者(債務者)が供託所に対して持っている還付請求権に対して仮差押えをしている」という状態になります。つまり、債務者の銀行に対する預金債権を仮差押えしていた状態から、供託所に対する還付請求権を仮差押えしている状態に変わるわけです。

仮差押えの競合で銀行が供託した場合-図

さらに他の債権者は、この債務者の持っている還付請求権に対して、さらに差押命令を出すことができます。この場合は、今度は供託所に他の債権者からの差押命令が届くことになりますから、「供託所に差押命令が届いた時点」で執行供託に切り替わり、裁判所による配当手続きが開始されます。

つまり、供託所に新しく差押命令が送達された時点以降は、他の債権者はさらにその供託金を重ねて差押えることはできなくなります。





他の債権者との差押えの競合を回避するためには?

このように、せっかく債務者の銀行預金を差押えても、他の債権者が後から重ねて差押えや仮差押えをしてきた場合、債権者の取り分はどんどん減ってしまいます。そのため、最初に差押えた債権者としては、いかに早く自分の債権分の弁済を確保できるか、というのがポイントになります。

具体的には、以下の3つのいずれかを達成すると、他の債権者はもう重ねて差押えをすることができなくなります。

  • 他の債権者に差押えられる前に取立てを完了させる
  • 他の債権者に差押えられる前に、取立訴訟の訴状を送達させる
  • 他の債権者に差押えられる前に、転付命令を送達させる

 
銀行預金を差押えた場合には、速やかに上記の3つのいずれかを達成しなければなりません。

取立ての完了

最初の「取立て」はわかりやすいですね。裁判所からの差押命令が債務者に送達されてから、1週間が経過すると債権者に取立権が発生します。ここでなるべくモタつかないように、速やかに銀行に差押えた預金の払出を請求します。

1週間で取立て可能-図

ここで回収できてしまえばもう安心で、他の債権者から逃げ切ることができます。

取立訴訟の提起

次に、もし相手の第三債務者がなかなか取立ての請求に応じてくれない場合は、すぐに取立訴訟をおこして相手を訴えることを検討します。

取立訴訟を提起して、裁判所からの訴状が第三債務者に送達されれば、その「訴状が届いた時点」以降は、他の債権者は競合して差押えや仮差押えをすることができません民事執行法165条

銀行が相手の場合は、「正当な取立権を有しているのに任意の支払いに応じてくれない」というケースは滅多にないですが、第三債務者が一般企業などの場合で、なかなか取立請求をしても支払ってくれない場合は、さっさと取立訴訟をおこすのが有効な方法です。

転付命令の送達

最後の1つは転付命令です。転付命令とは、債務者が銀行に対して持っている「預金返還請求権」という債権そのものを自分に移転してしまう方法です。この転付命令は、差押命令と同時に銀行に送達することもできるので、最も早く債権を確保する方法でもあります。

転付命令をすると、他の債権者は手出しできない-図

転付命令については、以下の記事を参考にしてください。

もう一度、最後にまとめると、「他の債権者による差押えや仮差押え等による競合を排除して、差押えた預金を独り占めする」ためには、(1)取立てを完了させる、(2)取立訴訟をおこす、(3)転付命令をする、の3つのどれかを速やかに実行する必要があります。

取立訴訟と転付命令に関しては、裁判所から銀行に訴状や決定などの通知書が届いた時点で、他の債権者を排除することが可能になります。逆にいえば、取立訴訟や転付命令を申し立てても、その通知が銀行に届くよりも前に、他の債権者による差押命令の通知が銀行に届いてしまうとアウトです。

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